平年より2週間も早い梅雨明け。
ビールで祝おうと思っていたのだ。
日曜日の朝、目が醒めたときに、ああ、梅雨が明けたと思った。今年は入梅も早く、梅雨明けも早いと言ってた。週間予報では晴れが続いているし、気温もいやに高いから、そろそろなんじゃないかと思っていた。
今年は、入梅も出梅も身体で感じとることができた。ああよかった。忙しくても、季節の移ろいに対する感覚はまだ鈍っていないみたいだ。
だからこそ、だ。
夏の到来をビールで祝おうと思っていた。
ビールはいつもどおりのヱビスだ。壜の。
グラスは毎日使っているイッタラ・タピオのタンブラーを冷凍庫でしっかり冷やしておく。
つまみは枝豆を用意する。
茹でるのではなく、フライパンで莢が焦げるくらいまで焼いた、香ばしく甘い枝豆を用意するのだ。
焼いた枝豆は、アフガニスタンの大好きな古い鉢にいい加減に盛る。
蚊取り線香も用意する。
蚊取り線香は、金鳥のものでなくてはならない。アースのでも、フマキラーのでもダメだ。香りが違う。
マッチで火を点けたら、梅雨入り前に手に入れた、マダガスカル製の鉄の蚊取り線香皿に入れるのだ。
以上の準備が整ったら、いよいよビールだ。
よく冷えたビールとグラス、香ばしく甘い枝豆をお盆に載せ、枝豆の莢を入れる古新聞を小脇に挟んでベランダへ。首にはタオルをぶら下げて、夕焼けを眺めながらビールの栓を抜くはずであった。さあ夏だぞ、と。
それがどうだ。
僕の計画を嘲笑うかのような夕立だ。
しかも、だ。徐々に黒い雲が厚くなってきて、風が吹いてきて、の夕立ならまだ諦めもつこう。
空には晴れ間も見える。陽が差している。
にも拘らず、嘘みたいな大粒の雨が降っている。
そういうものだ。
夕焼けビールは、何でもない夕方を、特別な夕方にするはずだった。
たかが梅雨明けを、ささやかでも祝宴に変えるものであるはずだった。
だが、僕だって負けてはいない。
自然現象をどうにかすることはできなくても、やり方を変えて梅雨明けの宴を催すことくらいはできる。
ジェノバペーストである。
材料は、バジルの葉、松の実、にんにく、パルミジャーノ・レッジャーノのすりおろし、塩、胡椒、オリーブオイル。
これをフードプロセッサーでペースト状にする。
こちらは鶏モモ肉。
塩、胡椒をして、フライパンで皮目から焼きつける。
両面を焼いたら、白ワインで香り付け。
両面しっかり焼いたら、オーブンへ。
オーブンで焼いている間に、ジェノバペーストを温めながら、少量の水でのばす。
鶏肉のソテー ジェノベーゼソース。
付け合せのアスパラガスも、ジェノバソースでいただく。
そして、梅雨明けを祝うお酒は白ワインである。
コノスルの20バレル、シャルドネ。
年間20樽しか仕込まないという、コノスル最高級ラインナップである。
この20バレル、実においしいワインである。通常のヴァラエタルシリーズに較べるとちょっと値段が張るけれど、そこはさすがのコノスルである。コストパフォーマンスは非常に高いと思う。
普段飲みには少し高い気もする、ちょっとした宴にふさわしい、いいワイン。
この梅雨明けの晩餐は、実に上機嫌で進む。
肉の焼き加減が、完璧だったのだ。
中まで完全に火が通っていながら、実に、実に柔らかくジューシーに仕上がった。
ジェノバソースもよい出来だ。
上機嫌の晩餐だから、久しぶりにワインを1本空ける。
でも、もう少し飲みたくて、飲み残しの赤ワインにも手をつける。パンを軽く焙って、バターを塗って食べる。
飲みすぎだ。
でも構わない。だって梅雨明けの宴なのだから。
これから夏が終わるまでに、よく晴れた暑い夕暮れはきっといくらでもある。
夕焼けビールは、また次回である。