トマトを買いに出かけて、なんとなく立ち寄った魚屋さんで、あんまりいいブリがあったので買う。照り焼きもいいけれど、こっくりと煮物もいいなあと思って大根を買って帰る。
帰ってきて思う。僕はブリを買うつもりじゃなかったんだ。
切り干し大根が好きだ。
ほんとうに好きだ。
この地味な食べ物。
ほぼ水分といって差し支えないであろう大根をわざわざ干して水で戻すという、一見無意味とも思われる行程を経た切り干し大根は、どっこいそれが決して無意味ではないことをその味が雄弁に物語る。生のみずみずしい大根をお揚げといっしょに煮たところで、この味にはならない。
おそらく、最初は保存の目的で干すようになったのだろうと思う。しかしながらその副産物として、このやさしい味ができ上がったのだ。今は保存よりもむしろ切り干し大根の味を得るためにわざわざ干して、水で戻しているといっていい。
乾物類に共通していえることだけれど、ただ干してそれを水で戻しただけなのにこんなにも味が深くやさしくなるのは本当に不思議なことだと思う。それは恰も時間が作り出した魔法のようでもある。
それにしても、色もあまりぱっとしないし、華やかさのかけらもない、地味な食べ物である。でも地味は滋味に通じる。
【滋味】 ―ゆっくり味わうと分かる、深い・味(印象)
さて、切り干し大根を作った夜、さすがにこれだけでは寂しいので他にもいくつか作った。
冷奴。
奴の薬味はここのところ多様化して、趣向を凝らしたものを食べる機会も増えた。
それでもこの削り節とねぎと生姜と醬油という基本中の基本がやっぱり落ち着くのである。
深夜ともなると、スーパーの刺身売り場には、もう殆ど何も残っていない。
半額になっていたマグロのサクをヅケにして、山かけでいただく。
お酒は、我が家の酒として、もうすっかり定着した多治見の『三千盛純米』である。
いろいろと地酒の味を較べたりするのも、それはそれで愉しいことだが、何の気なしにお酒を飲むときは、いつもの味、馴染みのお酒というのが、ほっとする。
―『御馳走帖』(内田百閒,1979/中公文庫)
人にあげてしまったり、煮酒にしてしまうことはないけれど、時と場合によってはこの気持ちも分からないではない。誰かと飲むならおいしい地酒もいい。あーでもないこーでもないといいながら飲むのは愉しいことだ。
しかし、切り干し大根を食べながら独りで傾けるには、いつものお酒がいいと思う。
切り干し大根は、大好きだけれどあまり作る機会がない。というか作らない。
身勝手な話だけれど、これだけは自分で作るよりも誰かに作ってもらったのを食べたい気がする。
だけどなかなかそういうわけにもいかないので、仕方がないからたまに自分で作る。
ほんとうに好きだ。
この地味な食べ物。
ほぼ水分といって差し支えないであろう大根をわざわざ干して水で戻すという、一見無意味とも思われる行程を経た切り干し大根は、どっこいそれが決して無意味ではないことをその味が雄弁に物語る。生のみずみずしい大根をお揚げといっしょに煮たところで、この味にはならない。
おそらく、最初は保存の目的で干すようになったのだろうと思う。しかしながらその副産物として、このやさしい味ができ上がったのだ。今は保存よりもむしろ切り干し大根の味を得るためにわざわざ干して、水で戻しているといっていい。
乾物類に共通していえることだけれど、ただ干してそれを水で戻しただけなのにこんなにも味が深くやさしくなるのは本当に不思議なことだと思う。それは恰も時間が作り出した魔法のようでもある。
それにしても、色もあまりぱっとしないし、華やかさのかけらもない、地味な食べ物である。でも地味は滋味に通じる。
【滋味】 ―ゆっくり味わうと分かる、深い・味(印象)
―『新明解国語辞典 第四版』(三省堂,1989)
さて、切り干し大根を作った夜、さすがにこれだけでは寂しいので他にもいくつか作った。
冷奴。
奴の薬味はここのところ多様化して、趣向を凝らしたものを食べる機会も増えた。
それでもこの削り節とねぎと生姜と醬油という基本中の基本がやっぱり落ち着くのである。
深夜ともなると、スーパーの刺身売り場には、もう殆ど何も残っていない。
半額になっていたマグロのサクをヅケにして、山かけでいただく。
お酒は、我が家の酒として、もうすっかり定着した多治見の『三千盛純米』である。
いろいろと地酒の味を較べたりするのも、それはそれで愉しいことだが、何の気なしにお酒を飲むときは、いつもの味、馴染みのお酒というのが、ほっとする。
ただ、家にゐる限り、酒の味の変はるのは困るのである。時時飛行機で灘の倉から持つて来たと云ふ酒を貰ふことがあるが、味利きをする段になれば、うまい事は確かにうまいと思つても、私の飲み料と云ふ事になると、その、うまいと云ふ点が結局口に合はない欠点となるので、勿体ないと思ひながら、つい人にやつたり、煮酒に下ろしたりしてしまふ。
―『御馳走帖』(内田百閒,1979/中公文庫)
人にあげてしまったり、煮酒にしてしまうことはないけれど、時と場合によってはこの気持ちも分からないではない。誰かと飲むならおいしい地酒もいい。あーでもないこーでもないといいながら飲むのは愉しいことだ。
しかし、切り干し大根を食べながら独りで傾けるには、いつものお酒がいいと思う。
切り干し大根は、大好きだけれどあまり作る機会がない。というか作らない。
身勝手な話だけれど、これだけは自分で作るよりも誰かに作ってもらったのを食べたい気がする。
だけどなかなかそういうわけにもいかないので、仕方がないからたまに自分で作る。
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『魯山』からハガキがきている。
市川孝さんの展示があるという。『是非、ご来店下さい』のところに色鉛筆で乱雑に線が引いてある。来い、ってことだ。
市川さんの器がすごく好きだ。実用を一番に考えた潔さが好きだ。
だから自然に手が伸びる。
器は道具だ。使われてこそ価値があると思う。手が伸びる道具であるにはそれなりの理由がある。豪奢に飾り立てたようなものに嫌気が差すのは言うに及ばず、色が自然で食べ物を引き立てることとか、持ったかんじの心地よさとか、サイズがちょうどいいとか。または注ぎ口のあるものであれば、液体が尻漏れしない、とか。ほんの小さな理由が無数に積み重なって、いつも手が伸びる道具は決定されていく。
もう何年も前のことになるけれど、『魯山』を初めて訪ねたのも市川さんのティーポットを求めてのことだった。焼締のポット。
一度、水切りかごの中で、他のお皿にぶつかってポットの蓋を割ってしまったことがある。どうしても諦めきれずに、大嶌さんに継いでもらった。もちろん今も活躍している。
さて、展示に行くことに決めたら、買い物熱が上がってしまったのだ。
いけないとは思う。
思うけれど、熱が上がってしまったものは仕方がないのである。
そこで先週日曜日のお買い上げ品リスト。
まずは吉祥寺、Wickie。
かわいらしいエナメルのスプーンと木のバターナイフ。
Wickieはヴィンテージが主だけれど、新品の小物もなかなかいい感じです。
ARABIAの古いのも、すごく欲しかったけど我慢である。
続いて、Promenade。
蚊取り線香のお皿。ブリキと黒とどちらにも決めかねて、結局両方買った。
片口。
これはもう、酒器として作られた片口。こういう黒い器は涼しげに映るので、これから冷酒を飲むときによいと思う。
西荻に戻ってきて、いよいよ魯山。
注ぎ口のついたものばかり買っているが、水差しを買う。
こいつから注がれた水は、なんだかおいしく感じるかもしれないと思い。
今回の大きな収穫は、この平皿。
耐火皿である。調理もできる。
それより何より、これを火にかけて使っていくうちにどんどん表情が変化していくだろう。
それが楽しみでしようがない。
またも片口。
これだけ市川さんのではない。
古い平清水(たぶん)。
どうも、片口ばかり買ってしまうようである。
魯山には、市川さん本人がいた。
入浴剤をくれました。
市川孝さんの展示があるという。『是非、ご来店下さい』のところに色鉛筆で乱雑に線が引いてある。来い、ってことだ。
市川さんの器がすごく好きだ。実用を一番に考えた潔さが好きだ。
だから自然に手が伸びる。
器は道具だ。使われてこそ価値があると思う。手が伸びる道具であるにはそれなりの理由がある。豪奢に飾り立てたようなものに嫌気が差すのは言うに及ばず、色が自然で食べ物を引き立てることとか、持ったかんじの心地よさとか、サイズがちょうどいいとか。または注ぎ口のあるものであれば、液体が尻漏れしない、とか。ほんの小さな理由が無数に積み重なって、いつも手が伸びる道具は決定されていく。
もう何年も前のことになるけれど、『魯山』を初めて訪ねたのも市川さんのティーポットを求めてのことだった。焼締のポット。
一度、水切りかごの中で、他のお皿にぶつかってポットの蓋を割ってしまったことがある。どうしても諦めきれずに、大嶌さんに継いでもらった。もちろん今も活躍している。
さて、展示に行くことに決めたら、買い物熱が上がってしまったのだ。
いけないとは思う。
思うけれど、熱が上がってしまったものは仕方がないのである。
そこで先週日曜日のお買い上げ品リスト。
まずは吉祥寺、Wickie。
かわいらしいエナメルのスプーンと木のバターナイフ。
Wickieはヴィンテージが主だけれど、新品の小物もなかなかいい感じです。
ARABIAの古いのも、すごく欲しかったけど我慢である。
続いて、Promenade。
蚊取り線香のお皿。ブリキと黒とどちらにも決めかねて、結局両方買った。
片口。
これはもう、酒器として作られた片口。こういう黒い器は涼しげに映るので、これから冷酒を飲むときによいと思う。
西荻に戻ってきて、いよいよ魯山。
注ぎ口のついたものばかり買っているが、水差しを買う。
こいつから注がれた水は、なんだかおいしく感じるかもしれないと思い。
今回の大きな収穫は、この平皿。
耐火皿である。調理もできる。
それより何より、これを火にかけて使っていくうちにどんどん表情が変化していくだろう。
それが楽しみでしようがない。
またも片口。
これだけ市川さんのではない。
古い平清水(たぶん)。
どうも、片口ばかり買ってしまうようである。
魯山には、市川さん本人がいた。
入浴剤をくれました。
『MILLEN BOX』/奥田民生(FAILBOX,1997)
ユニコーン復活。でも民生に限っては独りのほうがかっこいいと思う。
3ヶ月のご無沙汰でございました。
セキヤは元気でございます。ただ、ちょっとシゴトが立て込んでおりまして…。
いつものように料理はしていますし、来客もあるので撮った写真ばかり溜まっていくのですが、その写真を整理し、補正し、文章を書く、という作業をする時間がなかなかなくて、気付いたら3ヶ月が経過していました。
コメントを下さったみなさま、ほんとうに申し訳ありません。
全部読んでます。必ず返信しますので、気長に待っていただければと思います。
「あのー…、私がお邪魔したときの記事はいつアップされるのでしょうか…。」
橋Dさんは寂しそうに呟いた。
そうだよね。そうですよね。
いつのことだったか記憶が曖昧になるくらいの時間が過ぎてしまった。
ただでさえ、ものを記憶する能力に難がある僕だ。
橋Dさんが家に来たのはたしか2月のことだったように思う。
仕事上、密接な関係を持つ人で、『ブリ買う』も読んでくれている。いろいろ大変な局面を乗り越えたから、ここはいっちょ家でメシでも食いますか、という運びであった。
また、こいつだ。
『枝豆としらすと豆腐』
作り方はこちらを参照のこと
↓
いつもの味―豆腐と枝豆としらすの和え物
『もぐもぐ』のホワイトソーセージ。
西荻に住んでいて、本当によかったと思うのは、こういうときだ。
『いやね、橋Dさん。ここのソーセージはすごいんですよ。』などと誇らしげに言うのだ。まるで自分のことのように。
『ジャーマンポテト』
久しぶりに作った。にんにくとローズマリーで香りをつけたオリーブオイルでベーコンとたまねぎを炒める。白ワインをふる。
茹でたじゃがいもを入れて、軽く炒めたらオーブンへ。
味付けは、塩・胡椒。
『スパゲティ・プッタネスカ』。
娼婦風スパゲティーである。
とてもいい出来だ。
橋Dさんはトマトソースが一番好きだと言っていた。
好物を供することができてよかったと思う。
このとき会話から、『仕事帰りに橋Dさんと深夜のラーメン屋ツアー』という企画がスタートすることになる。
深夜のラーメンは、なかなかお腹にくる感じである。
愉しかった。おいしいものはいいね、とほんとに思う。笑顔になります。
余裕のときを、もっと。
くるり/『ミレニアム』より
(『図鑑』/2000,VICTOR ENTERTAINMENT,INC.所収)
やけに眩しい気がして目が覚める。
僕の部屋にこんなに明るい日が射すのは昼近くなってからのはずだ。
何かがおかしい。ここは僕の部屋じゃない。
隣に何かが寝ている。白い羽毛に包まれた何か。頭に赤いトサカみたいなものが生えている。
落ち着こうと思う。どうしてこんな状況に巻き込まれているのか。
昨日何をした?どこで飲んでた?誰と何を話した?
だめだ。何も憶えてない。
白い羽毛に包まれた何かは目を覚ましてこちらを振り向く。ベンゾーさんみたいな眼鏡をかけている。
僕の目を見て、ちょっと恥ずかしそうな、でも満ち足りたような微笑みを浮かべる。
僕は慌てた。
「な、何だ君は!」
白い羽毛にくるまれた何かは、驚いたように目を剥いて、頭のトサカみたいなものを揺らしながらこう言った。
「何だつぃみは!? 何だつぃみはってか!!そうです。ワタスがへんなニワトリで…」
「ぎゃあああ!」
高鳴る鼓動とともに目を覚ます。冷たい汗をかいている。
よかった、ここは僕の部屋だ。
しかし、僕の左側で小さな寝息をたてているものは、白い羽毛に包まれていて、頭には赤いトサカのようなものが生えていた。
土曜日に鍋をして、鶏つくねが余った。
何かの暗示のような気がして、このつくねは何があってもムダにはすまいと思った。
月曜深夜。
僕たちは鍋をした。
時間がたったせいか、鶏つくねの味がちょっと変だ。
もしかしたら、あの眼鏡を一緒に煮込んでしまったのではないかと思った。
ところで、友人エイドリアンは『くるりは図鑑だろ』と言う。
必要なのは
愛だけさ愛だけさ 笑うなよ 殺すぞ
ラララ
『ロシアのルーレット』より
ほんとにそうだなと思う。
新ごぼうが出ていたのである。
まだまだ寒いけれど、土の中はそろそろ春の準備か。
やわらかい新ごぼうだ。じっくり煮て、ほくほくのを食べたいと思った。
そこで、鶏つくねと炊き合わせにすることにした。
ごぼうは適当に切ったら袋に入れ布巾を被せて、すりこぎで叩く。粉砕しないように気をつける。
水に晒す。
鶏つくねは、鶏ひき肉、れんこんのみじん切り、たけのこのみじん切り、しょうがのみじん切り、酒、塩、全卵、片栗粉を混ぜ合わせ、よく練る。粘りが出て白っぽくなるまでひたすら練る。
だし汁に、つくねを入れていく。つくねの表面が固まったらごぼうを入れ、酒と砂糖を入れる。
ちょっと甘めくらいがいい。
落し蓋をして、しばらく煮る。
ごぼうがやわらかくなったら塩と薄口醬油を入れ、落し蓋をしてさらに煮る。
味醂を入れる。アルコールが飛んだら火を止めて冷ます。
食べる前に温めて、最後に根三つ葉を入れて完成。
三つ葉の香りが、ごぼうとの相乗効果でさらに郷愁を誘う風味になる。
新ごぼうはまるで芋みたいにほくほくだ。
味がよく染みこんでいて、でも土の香りのするごぼうはなんと幸せな味だろうと思う。
泣ける味だ。
ささがきにするとこの感じは出ない。だから新ごぼうは叩いて煮るようにする。
炊き合わせだけでは寂しいので、お揚げを焼く。
いつもどおりのしょうが醤油でいただく。
これは、やっぱり日本酒が呼んでいる献立である。
お酒は先日いただいた『両関』。
味はふつう。
この冬で初めて、そろそろ春だなあと感じた瞬間だった。
まだまだ寒いけれど、土の中はそろそろ春の準備か。
やわらかい新ごぼうだ。じっくり煮て、ほくほくのを食べたいと思った。
そこで、鶏つくねと炊き合わせにすることにした。
ごぼうは適当に切ったら袋に入れ布巾を被せて、すりこぎで叩く。粉砕しないように気をつける。
水に晒す。
鶏つくねは、鶏ひき肉、れんこんのみじん切り、たけのこのみじん切り、しょうがのみじん切り、酒、塩、全卵、片栗粉を混ぜ合わせ、よく練る。粘りが出て白っぽくなるまでひたすら練る。
だし汁に、つくねを入れていく。つくねの表面が固まったらごぼうを入れ、酒と砂糖を入れる。
ちょっと甘めくらいがいい。
落し蓋をして、しばらく煮る。
ごぼうがやわらかくなったら塩と薄口醬油を入れ、落し蓋をしてさらに煮る。
味醂を入れる。アルコールが飛んだら火を止めて冷ます。
食べる前に温めて、最後に根三つ葉を入れて完成。
三つ葉の香りが、ごぼうとの相乗効果でさらに郷愁を誘う風味になる。
新ごぼうはまるで芋みたいにほくほくだ。
味がよく染みこんでいて、でも土の香りのするごぼうはなんと幸せな味だろうと思う。
泣ける味だ。
ささがきにするとこの感じは出ない。だから新ごぼうは叩いて煮るようにする。
炊き合わせだけでは寂しいので、お揚げを焼く。
いつもどおりのしょうが醤油でいただく。
これは、やっぱり日本酒が呼んでいる献立である。
お酒は先日いただいた『両関』。
味はふつう。
この冬で初めて、そろそろ春だなあと感じた瞬間だった。
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プロフィール
HN:
セキヤ
年齢:
47
性別:
男性
誕生日:
1977/05/04
職業:
会社員
趣味:
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自己紹介:
憂いのAB型
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