『Ethology』(coa records 2004)
HARCO
明るい気分と共に目を覚ます
天候はおそらく午後から崩れる
窓際でずっと空元気を振りまいては
今日のこともすぐに忘れてしまうよと野良猫に話す
切り絵のような町を抜けて
ああ、僕は寂しさを素手でぐっと遠ざける
(『お引越し』より)
引越しをしたので『お引越し』から引用してみた。
実際にやってみると、寂しさを素手で遠ざけるような切ないものではぜんぜんなかったわけである。とても大変でした。
引越したのは11月17日。土曜日。有志の友人4人に手伝ってもらって、どうにか引越しました。
荷造りは1週間前くらいから始めていたのだけれど、それでも間に合わなかった…。結局、大量の食器たちはダンボール20箱にもなり、文庫本を含めて本たちは15箱になった。我ながら荷物の多さに呆れたが、まあ愛するモノたちだからしょうがないか。
クローゼットの奥のほうを発掘すると、いらないものが実にたくさん出てきた。捨てられない自分に対し、内心忸怩たる思いです。なぜか未開封のポテトチップスが出てきたし…。何で隠すようにあんなところにしまってあったのか、謎である。
5年間住んだ部屋には申し訳ないのだけれど、新しいところに越すというのは今まで溜めてきた澱(おり)を置いていく、というような気持ちが強かった。いらないものを捨てるとかそういうことよりも、もっと精神的な、生活の澱のようなものを捨てる感じ。
まさに混沌の様相を呈している。
椅子が足りなくて、ビールケースにクッションを置いて椅子代わりにしてるし。
お引越しを手伝ってくれたみなさま、本当にありがとう。
1週間後、三鷹台の部屋に戻ってできるだけきれいに掃除をしてきた。5年間住んだ部屋に感謝の気持ちをこめて。
モノがすっかりなくなってがらんとした部屋にいると、ちょっとだけ寂しさを素手で遠ざけるような気持ちになった。
白ワインの気分だったからだ。
寒いというほどでもないけれど、Tシャツ一枚では過ごせない陽気。重ね着をする季節になった。
僕は暑さと湿気が苦手で、秋から冬にかけてが自分の季節だと思っている。でも薄着から重ね着に移行するこの時期、1枚だったのが2枚・3枚になると、どうしても重っ苦しさや鬱陶しさを感じてしまうのも人情であろう。
かといってビールを飲み干すのには肌寒い。ビールがおいしくなるのは、暖房を入れるくらい寒くなってから。火照った体にキンキンに冷やしたビールを流し込むのだ。ならば、この鬱陶しさを洗い流してくれるのは鮮やかな香りの辛口の白ワインだ。
そんなわけで、気分はすっかり白ワインなのである。それも若いやつ。鮮烈な果実味のあるのがいい。
ならば、と思いついたのがこのスモークサーモンのパスタだ。
サーモンはどうしても生臭い。だからフランベしてバターと生クリームで包む。そうすると白ワインとよく合う。赤い料理には赤ワイン、白い料理には白ワイン、なんていう短絡的な極めつけはどうかと思うけれど、この白いパスタは白ワインによく合うと思う。
食べ物や飲み物は、体と心が求めるものだ。『今日はどうしても白いごはんが食べたいのだ。コメの飯がぐびぐびと咽喉を通る快感を味わいたいのだ』とか、『どうしてもハンバーガーにかぶりつきたいのだ』とか、そういう気分のときは体が求めているのだと思う。お酒の場合は心が作用することが多い。陽気のせいとか、酔いかたとか。
僕にはもうひとつの要素がある。『器』である。
焼締のお皿を見ていたら、緑の野菜を盛り付けたくなったとか、浅鉢にごろごろした煮物を入れたくなった、とか。
些細な、一見つまらないようなことから日々の食べ物は決定されていく。けれども、そういう些細な要素に耳を傾けていることも意外といいものと思う。なんだか年寄りみたいな意見ですが。
さて、パスタの作り方。このパスタは『ラ・ベットラ』落合シェフの本を見て憶えたので、おそらく同じだと思う。
材料はスモークサーモン、生クリーム、牛乳、バター、ウォッカ。生クリームと牛乳の割合は4:1。生クリーム200mlに牛乳50ml。
写真にはないが、パルミジャーノレッジャーノのすりおろし、サラダ油、スパゲティー、塩、胡椒。
フライパンにバターとサラダ油を入れて弱火でバターを溶かす。バターだけでは焦げやすいのでサラダ油も使う。
これでサーモンの生臭さを飛ばす。
煮立たせすぎないように注意する。
ふつふつしてきたら極弱火にして、煮詰まってきたらパスタのゆで汁を加える。
最後にパルミジャーノが入るので、その分を考慮して塩、胡椒で味を調える。
茹で上がったパスタを入れ、パルミジャーノレッジャーノのすりおろしを加え、しっかり和えて完成。
『モンテス』のシャルドネ。若いけど、舌先にピリピリくる感じが少なくておいしいワインだった。
白も赤もそうだけど、チリのワインは早飲みに向いていると思う。
ずっと欲しかったティーマ/探してた/手に入れた/
探していたのだ。アラビア・ティーマを。
『ティーマ(TEEMA)』は、kaj Frank(カイ・フランク)による、装飾を一切取り払った機能的なデザインで有名である。
フィンランドの老舗食器メーカー『アラビア』社は、2001年イッタラ社と統合。以来、その代表的ラインナップである『ティーマ』にもアラビアの王冠ロゴは使われなくなった。
でも、やっぱりティーマといったらこの王冠ロゴなんですよ。
ちょっと前まで(といっても5,6年前だけど)普通に流通していたのが、売れ筋商品からだんだんイッタラロゴに切り替わり、ついにお目にかかることはなくなった。
今回手に入れたのは80年代のデッドストックである。初めて見た。グレーのティーマ。
我が家のティーマのカップ&ソーサーはこれで4セットになった。
かわいい黄色と、やさしげなグレー。
うれしい!
いつの日か、ティーマのロゴがアラビア時代の王冠ロゴに戻ってくれることを願っている。
家にごはんを食べに来るネコたちの中で、おそらくこいつがいちばん瘠せている。
眼光が鋭い。耳が思いっきり警戒している。
それでも今日は写真を撮らせてくれた。少し慣れてきたのかも。
不安定な体勢でミルクを飲む。
見んなよ、みたいな表情。
僕はもうすぐ引越してしまうけれど、がんばって生きろよ。
オレとしては 猫にとって
大地の恵みでありたいと
空から雨が降るように
大地に日々の糧を得るように
猫に 猫缶
ありがとうなんて
聞こえなくていい
やまだないと『西荻カメラ』(杉並北尾堂 2003)より
ネコたちと接していて感じるのは、たとえそれが飼い猫であっても、人間はただの環境に過ぎないのだ、ということ。飼い主でも、同居人でさえなくて、何となくそこにあるものとして受け入れているように感じる。もちろんネコたちがほんとうはどう感じているのかはわからないのだけれど。
でもそんな関係もなかなか気持ちいいものだと思う。
とはいえ、こちらの気持ちと裏腹につれない態度を取られて、「まあしょうがねえか」と看過できるのは、やはり相手がネコだからこそなのだけれども。
スパゲティーが好きでよく作る。
本当によく作る。
オリーブオイルとにんにくは切らしたことがないし、ホールトマトの缶詰は10缶、20缶と買ってストックしている。
オイル系、トマト系、クリーム系。実にたくさんのスパゲティーを作ってきた。思ったよりおいしくなくてぶつぶつ言いながら食べたこともあるし、何となく面倒くさくて適当に作ったのがすごく上手にできて、唸りながら食べたこともある。
ごちそうのような、派手なパスタもいいけれど、ふと食べたくなるのは、基本的なシンプルなパスタだ。トマトソースだけでもいいし、にんにくと唐辛子だけのスパゲティーでもいい。物足りない気がするなら、そのときに食べたい具を入れて作ればいい。
さて、そんな基本パスタのひとつがこのほうれん草とベーコンのトマトソースだ。
ほうれん草のうまみが、ベーコンのうまみを取り込んだトマトソースとしっかり絡む。おいしくないわけがない。
材料は、ほうれん草、ベーコン、ホールトマト。
あとは、にんにく、スパゲティー、塩・胡椒。
ほうれん草はざく切り。ベーコンはできればブロックのものを買ってきて、厚く切る。ホールトマトの缶詰は手でつぶしておく。
パスタ用のお湯を沸かしておいて、包丁の腹でつぶしたにんにくとオリーブオイルをフライパンにいれ、とろ火にかける。フライパンを傾けて、にんにくを低温からじっくり揚げるようにする。
にんにくのおいしさをオイルにしみ出させるような感じ。
にんにくがきつね色になったら、ベーコンを入れてカリカリになるまで炒める。
ホールトマトを入れる。
ふつふつしてきたらパスタをお湯の中へ。パスタのゆで時間でソースを煮詰める感覚でいつもやっている。
ソースが煮詰まってきたら、パスタのゆで汁でのばす。パスタのゆで汁には塩が入っているので、塩加減に気をつける。
パスタソースに最も重要なのが『乳化』だ。混ざらないはずの水と油を、油の粒を細かくすることでなじませる。中~弱火で煮詰めながら、フライパンをゆすっていると乳化する。実はこのときに重要な役割を果たすのがゆで汁だ。ゆで汁にはパスタのでんぷん質が溶け込んでいるから、ゆで汁を入れることで乳化しやすくなるのだ。
しっかり乳化したソースは、とろりとしてパスタにしっかり絡む。このことがパスタのおいしさのキモだと思う。
きちんと乳化したら、ゆで汁を入れた分を考慮して、塩・胡椒で味を調える。
パスタのゆで時間が残り1分を切ったらほうれん草を入れてざっくり混ぜる。
茹で上がったパスタをしっかりソースと絡めて、完成。
明日は休みだから、ワインを飲む。
ワイングラスもいいけれど、最近のお気に入りは、このプレスガラスのコップ。分厚くぼったりしていて、気の置けない感じがいい。赤ワインはこれで飲むととってもおいしい。
今日もおいしく食べました。
今まで僕が食べた何100kgものパスタ。
これからもずっと作り続けるであろう何トンものパスタ。
僕の体を構成するものたちは、少なからずパスタでできている。
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『Pocketful of Poetry』
Mindy Gledhill
この数ヶ月、僕は「ミンディ・グレッドヒルは分かってる!」と叫び続けてきた。この人のアルバムからはポップってのはこういうものさ、という自信が滲み出ていると思う。tr. 2『Trouble No More』がツボ中のツボ。僕の好物ばっかりいっぱい詰まってる。決して大袈裟な表現ではなく、棄て曲なし、最高に幸せな30分あまり。
『D'ACCORD』
SERGE DELAITE TRIO with ALAIN BRUEL
アトリエサワノのピアノトリオが大好きです。2枚同時発売のうちの1枚。これはピアノトリオにアコーディオンを加えた演奏。明るい休日のランチ。冷えた白ワイン飲みたくなる感じ。
J.S. Bach/Goldberg Variations
Simone Dinnerstein
ゴルトベルク変奏曲からグールドの影を拭いきれないのは仕方がない。この人の演奏には”脱・グールド”みたいな気負いはなく、曲に対してもグールドに対しても愛情に満ちていて、丁寧で、やさしくてすごく好きです。