西荻に引越す時、破損はゼロだった。
食器類が多いから、ガラス製品のひとつふたつは割れてしまっても仕方がないかな、と思っていた。
ただ、どこかに消滅してしまったものがある。
パン切り包丁である。
紛失というより、自分で捨ててしまったのかもしれない。あまりいいものじゃなかったから、引越すのだし、買い換えればいいやと思って捨てて、そのことを忘れてしまった。という可能性が高い。
普通の包丁ではパンは切りにくい。バゲットなどのハードタイプは特にそうだ。力を入れて外側の固いところを切ろうとすると、せっかくふかふかの内側がつぶれてしまう。まだ温かい焼きたてのパンを買ってきたのに、自分でつぶしてしまうなんてのはどうにも癪に障る。
そこで、我が台所に新入生君の登場となった。
ヴィクトリノックス(VICTORINOX)のパン切り包丁である。
スイス出身。
刃物は、日本製のものが世界で最も優れている。
世が明治になり、廃刀令発布。廃業した刀鍛冶たちは挙って包丁職人へと鞍替えする。だから今でも日本の包丁には日本刀の技術が活かされている。
だが、パン切り包丁だけは別だ。パン食の文化がまだ浅い日本より、ヨーロッパのほうが先を行く。
日本のものも(ものによっては)悪くはないのだそうだ。ただ、実際に刃を触って較べてみて感じた。「日本のものはナマクラだ※」と。
吉祥寺東急の刃物売り場の人は言う。「パン屑の量と断面が違う。」
※ただし、値段は日本製のほうが安い。
まず材質が違う。刀身部分も柄の木の部分も。そして、刃のアールのつき方もぜんぜん違う。長い歴史が培ってきたノウハウを感じる。
さて、例えば柳刃で刺身を切るとき、「刺身を引く」という。ノコギリも「挽く」という。いずれも手前に引いて切ることからこういう。
パンだってそうだ。
固い外側を、長い刀身全体を使ってノコギリを挽くようにして切る。上から押さえつけるようにしてはいけない。あくまで平行に引くつもりで切る。こうすれば、やわらかい中のふかふか部分はつぶれることなく、きれいに切ることができる。
パン切り包丁君、これからよろしくね。
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『Pocketful of Poetry』
Mindy Gledhill
この数ヶ月、僕は「ミンディ・グレッドヒルは分かってる!」と叫び続けてきた。この人のアルバムからはポップってのはこういうものさ、という自信が滲み出ていると思う。tr. 2『Trouble No More』がツボ中のツボ。僕の好物ばっかりいっぱい詰まってる。決して大袈裟な表現ではなく、棄て曲なし、最高に幸せな30分あまり。
『D'ACCORD』
SERGE DELAITE TRIO with ALAIN BRUEL
アトリエサワノのピアノトリオが大好きです。2枚同時発売のうちの1枚。これはピアノトリオにアコーディオンを加えた演奏。明るい休日のランチ。冷えた白ワイン飲みたくなる感じ。
J.S. Bach/Goldberg Variations
Simone Dinnerstein
ゴルトベルク変奏曲からグールドの影を拭いきれないのは仕方がない。この人の演奏には”脱・グールド”みたいな気負いはなく、曲に対してもグールドに対しても愛情に満ちていて、丁寧で、やさしくてすごく好きです。