いしいしんじ『麦ふみクーツェ』(理論社)を読んだのは、去年の今頃だったと思う。
土曜日だというのに会議に招集され、ぐったり、いやあな気分の帰り道、本屋さんに立ち寄って見つけた。いしいしんじの名前は知っていて、ずっと読んでみたいなあと思っていた。
本当は『ぶらんこ乗り』を読みたかった。でもそのときはたまたま売ってなくて、この『麦ふみクーツェ』を手に取ったのだった。
そのまま西荻窪の『戎』に寄って、ビールを飲みながら読み始めたのをよく憶えている。土曜の夜。ガヤガヤとうるさい店内。大ジョッキ(『戎』には中生がない)。
「麦ふみのことなんてなにもしらなかった。」
この出だしを読んだときに、「ああ、いける」と思った。あとはもうぐんぐん惹きつけられていった。この本は、食べ物をおいしいと感じるとか、色をきれいだと思うとか、音楽を美しいと思うとか、人のことを思うとかそういう感動の根っこの部分をきちんと捉えていると思う。
もう、感動する場面がたくさんあってキリがないという感じだけれど、特に『へんてこさに誇りをもてる唯一の方法』のところは、もう!ここを読んでいるとき、僕は東西線に乗っていて(仕事で移動中)、茅場町あたりで思わず涙が出てきて自分でもびっくりした(僕は人前で泣いたりすることは、まずない)。欠伸をしたフリをしてごまかしたけれど、さぞかしおかしな態度だったろうと思う。誰も見ちゃいないと思うけれど。
「ねえ先生」
とぼくはいう。「みどり色は何十万にひとりなんかじゃない。この世でたったひとりなんだ。ねえ、ひとりってつまり、そういうことでしょう?」
先生はなにもいわなかった。こたえをかえすかわり、鏡なし亭につくまでのあいだクッションのきいた座席の上で、ずっとぴょんぴょこ跳びはねていた。
その後、いしいしんじは僕の大好きな作家のひとりになった。一冊一冊丁寧に読み進んだ。それでも『麦ふみクーツェ』が一番のお気に入りだ。人生のベスト3に入るかも、と思っている。
今日、はじめて見るネコが来てました。三毛で、ものすごく警戒心が強かった。とても瘠せていて、ちょっとでも音を立てると逃げてしまうので、かわいそうだから写真は撮らずにそっとしておいた。後で見たら牛乳のお皿がきれいに空になっていました。
三毛、がんばって生きろ。牛乳なら用意してやる!
「ぶらんこ乗り」を読みました。まったりまとわりつく感じかと思いきや、さっぱりいながらも、しっかり味わえる、美味なヤツでした。
それにしても、プロフィールの写真のボケ具合が、あなどれませんね。
更新、楽しみにしてますぜー。
いしいしんじ、いいね。『ぶらんこ乗り』にも『麦ふみクーツェ』にも作者のイラストが入っていてかなりいい味を出してますよね。
更新は相当に不定期だと思いますが、根気よく付き合っていただければと思っています。
よろしくー。
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『Pocketful of Poetry』
Mindy Gledhill
この数ヶ月、僕は「ミンディ・グレッドヒルは分かってる!」と叫び続けてきた。この人のアルバムからはポップってのはこういうものさ、という自信が滲み出ていると思う。tr. 2『Trouble No More』がツボ中のツボ。僕の好物ばっかりいっぱい詰まってる。決して大袈裟な表現ではなく、棄て曲なし、最高に幸せな30分あまり。
『D'ACCORD』
SERGE DELAITE TRIO with ALAIN BRUEL
アトリエサワノのピアノトリオが大好きです。2枚同時発売のうちの1枚。これはピアノトリオにアコーディオンを加えた演奏。明るい休日のランチ。冷えた白ワイン飲みたくなる感じ。
J.S. Bach/Goldberg Variations
Simone Dinnerstein
ゴルトベルク変奏曲からグールドの影を拭いきれないのは仕方がない。この人の演奏には”脱・グールド”みたいな気負いはなく、曲に対してもグールドに対しても愛情に満ちていて、丁寧で、やさしくてすごく好きです。