贅沢とはなんだろうか。
独特の語釈で多くのファンを持つ(僕もそのひとりだ)三省堂『新明解国語辞典(第5版)』にはこう定義されている。
- 衣食住や趣味・娯楽などに必要以上にお金(や時間・人手)をかけ△る(て、自己満足にひたる)こと。また、その様子。
- そこまで望むのは△分をわきまえない(必要を超えた)ことだと考えられること。また、その様子。
- 望み得る最高の状態が実現され、それ以上を期待することは△無理な注文だ(欲が深過ぎる)ととらえられること。また、その様子。
自己満足かもしれない。でも、たまには贅沢もいいじゃないか。それもささやかな贅沢だ。
贅沢な朝食。
何が贅沢なのか。
このパンが贅沢なのだ。
起きて歯を磨いたら、寒いけれど焼きたてパンを買いに行く。『ムッシュソレイユ』へ!
『ムッシュソレイユ』は近所のパン屋さんだ。片道5分。
帰ってきたら、お湯を沸かす。バターを冷蔵庫から取り出して今日使う分を常温に戻す。
買ってきたパンを厚めにスライスして、残りは冷凍庫へ。これくらいのタイミングでお湯が沸く。これで準備は整った。あとは時間との勝負となる。
トースト、スクランブル・エッグ、コーヒー。この3つを完全な状態にして朝食に取りかからなければならない。
まずはコーヒーを淹れる。やかんで沸いているお湯は温度が高すぎるのでコーヒーポットに一度移す。これで湯温約90℃。まずはコーヒーの粉を湿らせる程度にお湯をかけ、30秒~40秒ほど待つ。コーヒーを蒸らすのだ。コーヒーの粉がドーム状に膨らんだら、お湯を2~3回に分けて、中心から螺旋状に回しかける。コーヒーカップはお湯で温めておく。
すかさずパンをトースターへ。
フライパンを火にかけ、バターを入れる。ボウルにたまご2個を割り入れ、白身のコシを切るように混ぜる。バターが融けてパチパチとはじけだしたらたまごを一気に流しいれ、フライパンをゆすりながら手を休めずスクランブルする。たまごに完全に火が通ったスクランブル・エッグなんて御免だ。かといって卵液が流れ出すようでは気持ちが悪い。火の通り具合に細心の注意を払う。
お皿に盛り付けたら塩・胡椒。ケチャップもいい。ここでトーストが焼き上がる。すかさずテーブルへ運んで、あとは食べるのみだ。
近所においしいパン屋さんを持つのは幸せなことだ。
『ムッシュソレイユ』はちょっと値段が高いけれど、おいしいパンを作るいい店だ。駅からだと徒歩15分はかかるのにわざわざ遠くから買いに来る人がいるくらい。
こんな店を近所に持つことができた僕はラッキーだ。
先程の『新明解国語辞典』には贅沢についてこんな用例が出ている。
―「この経済危機を乗り切るにはまず身辺から贅沢を追放することだ」
経済危機と朝食なら、僕は迷わず朝食をとる。
さて、おいしい朝食を食べたらどうするか。
もう1回寝る。これが一番の贅沢だ。
確かに、これ以上を期待するのは欲が深すぎるととらえられるし、またその様子だ。
『ODESSEY & ORACLE』
THE ZOMBIES (1968)
ゾンビーズについて語るとき、僕は涙を流さずにはいられない。この涙はみなさんに見えているだろうか?
ロック史上、最も不遇を託ったアルバムといえば、ビーチ・ボーイズ(というかブライアン・ウィルソン)の『Pet Sounds』で衆目の一致するところと思うが、この『ODESSEY & ORACLE』もそれに引けをとらない。
1964年に英DECCAレコードからデビューしたゾンビーズは、1stシングル『She's Not There』がいきなり大ヒット。ブリティッシュ・インベイジョンの波に乗り、アメリカでも広く受け入れられる。しかしその後は意欲的な作品を発表するも商業的に成功せず、人気は下降。
CBSレコードに移籍後、1968年には2ndアルバム『ODESSEY & ORACLE』を制作するも、完成を待たずボーカルのコリン・ブランストーンが脱退。アルバム完成後、バンドも解散。
翌69年米CBSのプロデューサー、アル・クーパーに見出され、『Time of the Season』をシングルカット。200万枚を超える大ヒットを記録するも、バンドはもうない…。そのためか偽ゾンビーズが出現。ゾンビーズを名乗ってライブ活動を行い荒稼ぎしたらしい。
レコード会社の要請にもかかわらず再結成には応じなかった。
(以上、ネット上の情報をもとにまとめました)
ゾンビーズのかわいそうなのは、その音楽が非常に素晴らしかったところにある。2ndアルバムに先駆けて発売されたシングル『Friends of Mine』にしても『Care of Cell 44(独房44)』にしても、なぜヒットしなかったのかわからない。極上のポップだ。これが売れないなら、どうすりゃいいんだ?という気持ちだったと思う。ほんとに。
アルバム『ODESSEY & ORACLE』はビートルズやビーチ・ボーイズの影響を強く受けた内容だが、メロディーの綺麗さ、コーラス、アレンジ、演奏技術、どれをとっても非の打ち所がないくらい。中心メンバーであるキーボードのロッド・アージェント、ベースのクリス・ホワイトの楽曲はほんとにすごい。レノン=マッカートニー、ブライアン・ウィルソンという先駆者がいるにせよ、充分に革新的だ。
大名盤です。
かわいそうなゾンビーズ…。一歩間違えば一躍時代の寵児になってもおかしくないくらいの内容だったのに。
ちなみに大ヒット曲『Time of the Season』は数年前、日産自動車のCMで使われていたのでご存知の方も多いことと思う。
僕は、クリスの手になる『Friends of Mine』が好きです。
僕は夕方にパンとサラダとハム・エッグを食べ、食後に桃の缶詰を食べた。
翌朝僕は米を炊き、鮭の缶詰とわかめとマッシュルームを使ってピラフを作った。
昼には冷凍してあったチーズ・ケーキを食べ、濃いミルク・ティーを飲んだ。
三時にはヘイゼルナッツ・アイスクリームにコアントロをかけて食べた。
夕方には骨つきの鶏肉をオーブンで焼き、キャンベルのスープを飲んだ。
―『羊をめぐる冒険』/村上春樹(1982,講談社)
村上春樹の小説にビールを飲むシーンと料理を作るシーンが多いのは有名な話だ。
引用したのは、『僕』が『鼠』と呼ばれる友人の別荘でひとり、『鼠』の登場を待ちながらひたすら料理をする場面の一部である。『僕』は暇にまかせて実にいろいろと料理を作る。ロースト・ビーフ、鮭のマリネ、たらことバターのスパゲティー、「頭を整理するために」ハンバーグ・ステーキ、さらに「パンの焼き方」の本を見ながら、パンまで焼いている。
この人の小説を読んでいると、たまらなくビールを飲みたくなるし、たまらなく料理をしたくなる。それもごく丁寧に。自分だけのために。
レシピ本も存在する。
『村上レシピ』
台所で読む村上春樹の会/編(飛鳥新社、2001)
村上作品に登場する料理を専門家の協力のもとにレシピ化した本。
どれも手軽にできるようにレシピ化してあるので、興味のある方は挑戦してみると面白いと思う。
さて、この中から僕が気に入って何度も作っているメニューがある。先ほどの別荘のシーンにある『鮭の缶詰とわかめとマッシュルームを使って』作るピラフだ。
レシピは上述の『村上レシピ』に従っている。
材料:鮭の缶詰、マッシュルーム、わかめ(乾燥)、ごはん*1、タイム*2、オリーブオイル、塩、胡椒。
*1 『村上レシピ』にも指摘があるとおり、本来ピラフは炊いていない米を炒めてスープで炊くが、ここでは小説に従って炊いたごはんでチャーハン風に作る。
*2 小説には記述がないが、鮭缶の生臭さを消すためにタイムを使う。
具の下ごしらえ。
鮭缶は缶汁を切り、身をほぐす。マッシュルームは2~3mmにスライス。わかめは水で戻して、水気をよく切る。
マッシュルームをオリーブオイルで炒める。
鮭を入れ、火が通ったらごはんを入れて炒める。
ごはんに油がまわってほぐれてきたら、わかめとタイムをいれ、塩・胡椒で味を調える。
※実は写真に間違いがあります。鮭とごはんを入れるタイミングが逆でした。すみません。文章に書いてある順番が正解です。
全体をよく混ぜ炒めたら完成。
これはすごく手軽にできるし、とてもおいしいので気に入っている。タイムはなくても構わないし、鮭缶とわかめは保存が利くものなので食べたいときに作ることができる。
本日のビールはこちら。
ドイツの『ヴァイエン ステファン ヘフヴァイス』という白ビール(小麦のビール)。
吉祥寺にある雑貨屋さん『Roundabout』の店主、小林さんが「吉祥寺のフードショーに売っている白ビールがおいしい」と教えてくれたもの。たぶんこれであってると思うのですが…。
酵母の香りがすごくいいビール。自然な香り。ヒューガルテンなどの白ビールはスパイスを加えてあってちょっと苦手だが、これはとてもおいしかった。すばらしいビールだと思う。ピラフとの相性もよかった。
今日もまたたくさん食べてしまった。
小説の主人公『僕』はこう言う。
―僕は再び太りつつある。
やれやれ。
何となく食べたくなったので、鶏のからあげを作った。
揚げ物は片付けが面倒なので、ひとりのときに作ることはまずないのだけれど、食べたくなってしまったものはしょうがないのである。
鶏もも肉は黄色い脂肪を取り除く。酒、醤油、胡椒、しょうがの絞り汁でつけ汁をつくり、適当な大きさに切った鶏肉に揉みこむような感じで下味をつける。
あとは小麦粉と片栗粉を1:1で混ぜた粉をつけて揚げるだけだが、この揚げ方が重要だ。
まずは油の温度を低めして、じっくり揚げる。きつね色にならないくらいで一度取り出す。5分程度おき、油を高温にし、きつね色になるまで揚げる。
『二度揚げ』である。これをやると中はふっくらジューシー、外はカリカリという言い古された言い回しのからあげができあがる。
ところで写真に写っているビールはバドワイザーである。酒屋さんで見かけて何となく買ったのだが、味のないビールだった。
僕もあなたも対して*変わりはしない
そんな気持ちであなたを見ていたい どんな人でも僕と大差はないのさ
拝啓、ジョン・レノン
そんな気持ちで世界を見ていたい
*原文ママ
―『拝啓、ジョンレノン』/真心ブラザーズ
(Ki/oon SONY RECORDS,1996)
今なぜ、突然真心ブラザーズなのか。
年末に真心のライブに行ってきたからだ。
彼らは昔とぜんぜん変わらず、倉持のボーカルも桜井のレス・ポール・カスタムのゴージャスな音も健在だった。
真心ブラザーズが好き、という人にはあまり出会わない。しかし、僕にとっては青春なのでした。
『拝啓、ジョン・レノン』が出たとき、僕は19歳。そして、ビートルズに思いっきりかぶれていた時期だった。こういうことをしみじみと思い出したりするのは、歳をとったからなんだろうなあ、と思う。
発売当時、『ジョン・レノン バカな平和主義者』という歌詞に噛み付いて、放送禁止騒ぎがあった。しかし、ジョン・レノンに対するこれほど秀逸なオマージュはちょっと他には見当たらない。『現実見てない人』と切り捨てるあたり(もちろん愛情をこめて微笑むように)、最高です。おそらくジョン・レノンだって神格化されることなど望んではいなかったろうと思う。
さて、真心のおすすめを挙げておく。
『KING OF ROCK』(1995)
「THE真心ブラザーズ」から「真心ブラザーズ」に変わった一作目。超ハイテンションの名作。
『サマーヌード』(1995)
当時アルバム未収録だった(今はベスト盤に収録されている)。桜井秀俊の才能を堪能できる名曲。シングル盤、8cmCDだったなあ…。
『GREAT ADVENTURE』(1996)
『拝啓、ジョン・レノン』、『空にまいあがれ』所収。これがいちばん好き。
『I will Survive』(1998)
すぎむらしんいち氏によるジャケットが秀逸。桜井色が強い、おしゃれ・サウンドなアルバム。
『GOOD TIMES』(1999)
なんか、いろいろやってるなあ、という感じ。trk.3『突風』が名曲。
以上、アルバムはすべて初回盤で持っているのだが、中古市場で値上がりの気配は皆無である。
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『Pocketful of Poetry』
Mindy Gledhill
この数ヶ月、僕は「ミンディ・グレッドヒルは分かってる!」と叫び続けてきた。この人のアルバムからはポップってのはこういうものさ、という自信が滲み出ていると思う。tr. 2『Trouble No More』がツボ中のツボ。僕の好物ばっかりいっぱい詰まってる。決して大袈裟な表現ではなく、棄て曲なし、最高に幸せな30分あまり。
『D'ACCORD』
SERGE DELAITE TRIO with ALAIN BRUEL
アトリエサワノのピアノトリオが大好きです。2枚同時発売のうちの1枚。これはピアノトリオにアコーディオンを加えた演奏。明るい休日のランチ。冷えた白ワイン飲みたくなる感じ。
J.S. Bach/Goldberg Variations
Simone Dinnerstein
ゴルトベルク変奏曲からグールドの影を拭いきれないのは仕方がない。この人の演奏には”脱・グールド”みたいな気負いはなく、曲に対してもグールドに対しても愛情に満ちていて、丁寧で、やさしくてすごく好きです。