夜道を一人で歩いていたら
どこから何やらカレーのにおい
僕もこれから帰るんだよ
湯気がたってる暖かいうち
素晴らしきこの世界
(真心ブラザーズ/『素晴らしきこの世界』より)
カレーが嫌いだという人は少ないとは思うけれど、僕はカレーが大好きだ。食べることも作ることも。だからカレーについて語るとき、僕はどうしても饒舌になる。
倉持陽一はカレーを平和の象徴として描いた。
カレーは我々にとって身近な食べ物であり、かつその料理の成り立ちから様々な形態が存在するために、人によってイメージするカレーは千差万別だろう。家庭によってもその味は大きく異なるので、こだわりを持っている人も多いことと思う。カレーってのはこうじゃなくちゃ、と。
もともと発祥の地であるインドにカレーという食べ物が存在しないのは有名な話だ。インド人のようにスパイスの調合に長けていないイギリス人が調合済みのスパイスを商品化したことからカレー粉の歴史は始まる。C&B社のカレーパウダーである。
さて、そんなカレーは日本に入ってきて、かなりの愛されっぷりである。家庭料理としても、お店で食べるエスニック料理としても。ラーメンと並ぶ国民食と言われるほどだ。
ところで僕はカレーをかなりざっくりと以下のように分類している。
①家カレー
②インドカレー
③欧風カレー
④東南アジアのココナッツミルクを使ったカレー
好きな順も以上の通りで、自分で作るカレーは思いっきり家っぽいカレーかインド風のカレー、もしくは両者の中間のいずれかになる。外で食べるのもだいたいこの順番。『家カレー』を外で食べることはできないけれど、カレースタンドのカレーというのがある。『~系』ではない、いわゆる『駄カレー』だ。
前置きが非常に長くなった。今回の本題はこの『駄カレー』なのである。
僕がこよなく愛するのは、『C&C』のカレーだ。C&Cのカレーは、洗練されたところが微塵もない。紛うことなき駄カレーだ。でもおいしい。ほんとにおいしい。
何なのだろう。このおいしさは。
僕がいつも食べるのがこの『唐揚げカレー』。500円。
ゆでたまごをトッピングする(60円)。
カレーソースは野菜(マイルド・野菜・中辛・辛口がある)。僕は辛いカレーが好きだけど、C&Cに関しては野菜のソースがいちばんいいと思う。甘い系だけど、これがいちばんおいしい。
C&Cは1回食べるごとにサービス券をくれる(右図参照)。これを10枚ためるとポークカレーが一食分サービスになるシステムになっている。
また、定期的(?)にカツカレーが安くなったりすることがあるので、目が離せない。
ところで、そんなC&Cのメニューで気になるのがひとつある。『手仕込風チキンカツカレー』というものだ。『手仕込風』と高らかに謳ってしまうことで、『手仕込じゃない』ことを逆説的に証明してしまっている。黙っていればいいのにと思う。
「僕はどうせならネコになりたいよ くだらないことから逃げて寝ていたい」
カレーとはぜんぜん関係ないのだが、冒頭に引用した真心ブラザーズの『素晴らしきこの世界』のこの歌詞が好きだ。
ほんと、くだらないことから逃げて寝ていたい。
ネコになりたい。
『関谷倶楽部』という会員制クラブが存在する。
会員たちと、その都度ゲストを招いてひたすらただ食べて飲む、という企画である。料理は不肖セキヤが担当する。平たく言えば家飲みである。
会費が毎回高いので、高級クラブということもできる。こういうことをやり始めて、もう3年くらい経つから、恒例のお楽しみ会だ。とても楽しいのです。
今回のメニューは『黒大豆の枝豆』、『セロリといかの燻製のオリーブオイル和え』、『ひたし豆と蕎麦の新芽の白和え(柚子ぽん酢風味)』、『するめの糀漬け』、『蓮根と蒟蒻の炒り煮』、『肉じゃが』、『牛蒡と豆腐のたまごとじ』、『豚ばら肉のソテー』、『鶏つくねの照り焼き』、『娼婦風スパゲティー』。
最後の娼婦風スパゲティーだけ異質なのは、最後にどうしてもパスタを、というリクエストに応えて作ったからだ。今回のテーマは『和食』。たいていはパスタなど洋風の料理とワイン、ということが多いので、「秋だし、日本酒のもうぜー」ということになった。
ゲストは2名。会員のひとりの高校の同級生とその奥様。関西の人だ。味付けが口に合うかな、とちょっと不安だったけれど、喜んでくれたようなのでよかった。
まずはビール。
たいてい買っておくのはヱビスかサッポロ黒ラベル。あとはごちそうビールとしてアメリカの『BROOKLYN LAGER』を用意することもある。
ちなみにこの日は集合が15時。写真は照明を落としているので夜っぽい感じだけれど、実は15時半くらいです。真昼間。この微かな後ろめたさもまた快感だ。
お酒は『雪中梅』と『益荒男』を用意。西荻の三ツ矢酒店で買った。親父さんと30分以上話して決めた。
ひたし豆と蕎麦の新芽を豆腐で和える。
柚子ぽん酢と太白ごま油で味付け。
ささがき牛蒡をだし汁で煮て、豆腐を入れてたまごでとじる。上に乗っているのは糸三つ葉。
牛蒡の土臭い香りと三つ葉は好相性だと思う。
肉じゃが。とてもやさしい味だ。
もうこれは家の母親の味そのものなので、懐かしさとともにちょっとだけ気恥ずかしくもあった。
するめの糀漬け。これも三ツ矢酒店で買った。
日本酒のアテには最高の味。
豚バラ肉のソテー。
酒としょうゆをからめただけ。辛味大根をおろしたのでいただく。辛味大根がバラ肉の脂を流してくれるのでさっぱりと食べられる。
鶏つくね。鶏ひき肉が白っぽくなるくらいまでしっかりこねる(空気を含ませるようにする)のが、ふっくら仕上げるポイント。
お酒を注ぐときにちょっと布巾をあてがう、なんていうしぐさもまた日本酒ならでは。
話題はあちこちに飛び、夜は更けてゆく。今回もまたたくさん食べて飲みました。準備チームの人、後片付け手伝ってくれた人、どうもありがとう。
来月、引越しを控えているので、今回の関谷倶楽部は『さよなら三鷹台』も兼ねていた。
この部屋でずいぶん色んなことがあったなあ、と思う。
今度引越す部屋は今よりも広いので、より楽しい会を開きたい。長く続く集まりでありたい。「そういえば俺ら20代だったんだもんなあ。信じられない。」なんて言いあえたら、とても素敵なことだと思う。
『SAMBA'68』(verve)
MARCOS VALLE
この最低のアートワーク。ど真ん中でビミョーな笑顔を見せるこの男は誰か。
マルコス・ヴァーリである。
ボサノヴァが好きで、10年くらい前から代表的なものをポツポツと聴いている。10年前…。そう、あのカフェブームの頃。乗っかってしまったわけです。流行に。華やかだったカフェブームはすっかり落ち着いてしまったけれど、ボサノヴァの魅力には変わりはない。
ボッサといえば、ゴッドファーザー/アントニオ・カルロス・ジョビンが頂点に君臨するわけだが、実はこんな天才がいたのである。まったく知らなかった。この間、レコード屋さんで見かけて何となく買ってきて、聞いたら驚いた。あれもこれも、この人が作った曲だったのか!と。
調べたらとっても有名な方でした。
カルロス・ジョビンの曲もそうだけれど、複雑なコードを多用しても、強引ともいえるようなアクロバティックな進行をしても、人懐っこさをなくさないところがすごくいいと思う。モダンジャズがともすると高度な理論に拘泥して、頭でっかちで聴いてもなんだかよくわかんない状態になっていたりするのに対して、あくまで聴いて気持ちいい音楽を作るこういう人が大好きです。大事なことだと思う。
さて、そんなマルコス・ヴァーリの最新作がこちら。
『JET-SAMBA』(2005年/DUBAS MÚSICA)
クールでとてもかっこいいです。フェンダー・ローズってすごくいいと思う。
僕はいわゆる『鉄道マニア』ではない。
ではなぜこのような写真を撮っているのかといえば、このソリッドカラーの中央線「201系」が引退してしまうからだ。
僕は中野で生まれ育った。中学・高校は吉祥寺と西荻の間くらいにあった(今は移転した)某大学の付属校だ。ひとり暮らしを始めて住みついたのは三鷹台だけれど、徘徊先はやっぱり吉祥寺・西荻窪だし、今度引っ越そうと思っているのもやっぱり西荻窪だ。
もう、純粋培養かというくらいの中央線人間である。
本当のことを言うと、中央線なんか嫌いだった。かっこわるいと思っていた。渋谷から南に延びていく東急に密かな憧憬を抱いていた。ひとり暮らしを始めるときに井の頭線を選んだのも、私鉄沿線に住みたいと思ったからだ。中央線なんて、と。でも三鷹台だからすぐ近くなわけですが。
中央線の魅力を客観的に見られるようになったのは、ここ3~4年のことだと思う。実はそれぞれの街に特徴があってとても面白いことに気がついた。中野も高円寺も西荻も吉祥寺も距離としては大して離れていないのに、駅ごとにそれぞれの文化があって、そういう人が住みついている。私鉄沿線はそれぞれの駅に特徴が乏しい気がする。離れてみて、そのことに気がついた。やはり『故郷は遠きにありて思うもの』か(ぜんぜん遠くないけど)。
音楽もマンガも本も気がつけば『中央線的』なものばかり好きになる。やっぱりそうか。僕は中央線人間なのだ。東西に伸びるオレンジ色が僕の文化的土壌だったのだ。
さて、201系の後継車は、かなりモダンなステンレス車両である。車内は広いし、音も静かだ。だけど、僕にとっての中央線というのは、オレンジ一色の電車だ。あいつがいなくなるのは、正直とっても寂しいのです。201系の導入は1979年だそうなので、僕の中央線人生のほとんどをともに過ごしてきたことになる。
さよなら、愛しいオレンジ色。
僕は、髄まで沁みこんだオレンジ色文化を誇りに思う。
「俺、いちばんおいしいラーメンって、この、サッポロ一番だと思うんですよ。…」
よしもとばなな『ハゴロモ』(新潮社)の大嵩みつるの台詞だ。彼はそのことを証明するために趣味でラーメン屋をやっている。気が向いたときだけ。もちろん客に供するラーメンはサッポロ一番だ。
一番おいしいかどうかは置いておくとしても、僕もサッポロ一番が大好きだ。特に塩。
サッポロ一番を食べるときにはたいてい野菜炒めを作ってトッピングする。写真は、もやしときのこの炒め物(もやし、しめじ、しいたけ、エリンギを炒めて、酒、塩、胡椒、醤油で味をつけて最後にごま油で香りをつける)が乗っている。付属の切り胡麻にさらにすり胡麻を余計にかけている。
このトッピングの野菜炒めはそのときの気分や懐具合、前に食べたもの、冷蔵庫に残っている食材などの要素が複雑に絡み合って変化する。キャベツや青梗菜が入ることもあるし、木耳(きくらげ)や肉がはいることもある。どんなものを乗せたとしてもすんなりと受け入れてしまうのはやはりサッポロ一番の懐の深さか。
ここ何年かのおいしいとされるラーメンが背脂たっぷりでギトギトなのが多いのに対し、サッポロ一番のこのさっぱり感はどうだ。飽きない味とはこういうことなのだ。だからロングセラーになるし、たまに無性に食べたくなったりするのだ。
ところで前述のみつるくんのラーメン屋では、塩とみそのほかに『ミックス』なるメニューが存在する。
今度やってみようかと思う。
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『Pocketful of Poetry』
Mindy Gledhill
この数ヶ月、僕は「ミンディ・グレッドヒルは分かってる!」と叫び続けてきた。この人のアルバムからはポップってのはこういうものさ、という自信が滲み出ていると思う。tr. 2『Trouble No More』がツボ中のツボ。僕の好物ばっかりいっぱい詰まってる。決して大袈裟な表現ではなく、棄て曲なし、最高に幸せな30分あまり。
『D'ACCORD』
SERGE DELAITE TRIO with ALAIN BRUEL
アトリエサワノのピアノトリオが大好きです。2枚同時発売のうちの1枚。これはピアノトリオにアコーディオンを加えた演奏。明るい休日のランチ。冷えた白ワイン飲みたくなる感じ。
J.S. Bach/Goldberg Variations
Simone Dinnerstein
ゴルトベルク変奏曲からグールドの影を拭いきれないのは仕方がない。この人の演奏には”脱・グールド”みたいな気負いはなく、曲に対してもグールドに対しても愛情に満ちていて、丁寧で、やさしくてすごく好きです。