「俺、いちばんおいしいラーメンって、この、サッポロ一番だと思うんですよ。…」
よしもとばなな『ハゴロモ』(新潮社)の大嵩みつるの台詞だ。彼はそのことを証明するために趣味でラーメン屋をやっている。気が向いたときだけ。もちろん客に供するラーメンはサッポロ一番だ。
一番おいしいかどうかは置いておくとしても、僕もサッポロ一番が大好きだ。特に塩。
サッポロ一番を食べるときにはたいてい野菜炒めを作ってトッピングする。写真は、もやしときのこの炒め物(もやし、しめじ、しいたけ、エリンギを炒めて、酒、塩、胡椒、醤油で味をつけて最後にごま油で香りをつける)が乗っている。付属の切り胡麻にさらにすり胡麻を余計にかけている。
このトッピングの野菜炒めはそのときの気分や懐具合、前に食べたもの、冷蔵庫に残っている食材などの要素が複雑に絡み合って変化する。キャベツや青梗菜が入ることもあるし、木耳(きくらげ)や肉がはいることもある。どんなものを乗せたとしてもすんなりと受け入れてしまうのはやはりサッポロ一番の懐の深さか。
ここ何年かのおいしいとされるラーメンが背脂たっぷりでギトギトなのが多いのに対し、サッポロ一番のこのさっぱり感はどうだ。飽きない味とはこういうことなのだ。だからロングセラーになるし、たまに無性に食べたくなったりするのだ。
ところで前述のみつるくんのラーメン屋では、塩とみそのほかに『ミックス』なるメニューが存在する。
今度やってみようかと思う。
名前を聞いただけで心が躍ってしまう料理というものがある。
僕にとってオムライスはそのひとつだ。
ケチャップだけのシンプルオムライスもいいけれど、デミグラスソースのかかった濃厚なオムライスは素晴らしいご馳走だと思う。
まずはデミグラスソースを作る。
材料はたまねぎ1/4、しめじ・マッシュルームを適当に、缶詰のデミグラスソース、バター。
バターとサラダ油を熱して、くし型に切ったたまねぎを炒める。
たまねぎが半透明になったら、しめじ・マッシュルームを入れて白ワインをふりかける。
適度なとろみがつくまで煮詰めて完成。
つづいてチキンライスを作る。
材料は、鶏むね肉、たまねぎ、ごはん。
たまねぎは細かめのみじん切り、鶏むね肉は1cm角に切る。
フライパンで、鶏むね肉とたまねぎを炒め、鶏肉に火が通ったくらいでごはんを入れる。
へらでごはんを切るような感じで炒めて、ほぐれたら塩・胡椒で味付けをしてケチャップを入れる。
ケチャップは入れすぎるとべちゃべちゃになってしまうので少なめに。色が全体にまわるくらいでOK。
ここでチキンライス完成。
ここからは正念場。『たまごでくるむ』の工程に入ります。
たまご2個にパルミジャーノレッジャーノのすりおろしを加える。泡立て器で混ぜると白身のコシがよく切れる。
バターとサラダ油を入れたフライパンにたまごを流し入れ、かき混ぜる。
半熟になったらフライパン全体にたまごを広げて、真ん中にお茶碗1杯分のチキンライスを乗せ、くるむ。
オムライスをうまくくるむのは、やっぱり難しいと思う。
テフロン加工のフライパンを使えば失敗は少ないけれど、それでも成功率は70%くらいか・・・。
たまごの表面に焦げ目がついているのはイヤなので(香りがどうも貧乏くさくなるというか・・・)、きれいな黄色のオムライスを目指したい。
ちなみに右上にちょこっと写っているサラダはコンビニの出来合いサラダです。
寸胴鍋の中で、ぐつぐつと煮えているもの。
それは布巾である。
布巾についたトマトソースや赤ワインは、ちょっと洗ったくらいでは落ちやしない。汚れた布巾はまとめて洗剤で煮てしまう。
この方法は、学生のころアルバイトをしていた喫茶店で覚えた。閉店間近になると、その日使った布巾を寸胴鍋に入れて、洗濯用洗剤を少し入れてぐつぐつと煮てしまうのだ。その後水洗いして乾かす。
この方法は煮沸消毒ができるし、トマトやワインの汚れもきれいに落ちていいのだけれど、それより何より乾いた後のさっぱり感が違う。カラリと乾いていかにも清潔なのである。ちょっと面倒くさいと思うかも知れないけれど、このカラリ感はやみつきになる。
石井好子『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(暮らしの手帖社)にはこうある。
『…食事につかうテーブルクロスやナフキンは、週に一度大きなタライの中で煮るのだった。赤ちゃんのうぶ湯ぐらい使わせられるほど大きなタライによごれものを入れ、石けんの粉をふりかけて、上からお湯をひたひたになるまでそそいで火にかけ、ぐつぐつ中火で20分ぐらい煮る。
ときどき長い棒で上からつついたり、よごれものをひっくりかえしたりして、それがすむと水洗いするのだが、不思議なほど真白に、きれいによごれがおちていた。
これはテーブルクロスやナフキンにかぎらず、フランスの主婦が木綿ものを洗たくするときの方法で、十年一日のごとく、こうして洗いものをする。』
そう。きれいになるのだ。不思議なほど。
僕はフランスの主婦じゃないけれど、これを繰り返す。十年一日のごとく。
秋の夜長である。明日のことなど考えなくてよい日には、日本酒である。
高橋みどりさんの『酒のさかな』(メディアファクトリー)を読んでいたら、たまらなくつまみを作って日本酒を飲みたくなった。
つまみ① ごぼうと豆腐の卵とじ
ささがきにしたごぼうを水にさらし、だしで煮る。酒を加え、やわらかくなったら薄口しょうゆ、みりん。豆腐をくずし入れ、卵でとじる。刻んだ三つ葉をのせて完成。
豚バラ肉薄切りを半分にカット。塩・胡椒してフライパンでソテー。酒としょうゆで調味する。
大根おろしでさっぱりといただく。
これは友人のお母さんがよく作るものを教えてもらった。
おつまみ売り場に売っているいかの燻製(輪ゴムみたいなやつ)とざく切りにしたセロリを混ぜて胡椒、オリーブオイルで和えてしばらく置いただけ。
つまみ①、②は前述の『酒のさかな』を参考にしてます。
日本酒は吟醸酒より、純米酒のほうが日本酒っぽくて好きだ。
本日のお酒は『天狗舞』。
壜から直接、というのは味気ないので片口を使う。
これは古伊万里の蕎麦猪口(というか向付)だが、高台が付いているのと小ぶりなサイズがぴったりなのでもっぱらぐい呑みとして使っている。
外の風が肌寒く感じられるくらいの夜。
あー。お酒が沁みます。おいしいおつまみ。お酒をちびり。
秋の夜は長い。
好きな映画に『シェフとギャルソン リストランテの夜(原題はBIG NIGHT)』というのがある。イタリアからアメリカに移民してきた兄弟の話で、ふたりでイタリア料理店を始めるのだけれど、これが一向に流行らない。兄のプリモは故郷では料理の天才といわれるほどの腕前だが、自分の料理をアメリカ受けするように変えたりすることは好まない。
こんなシーンがある。
アメリカ人夫婦の客はリゾットを注文したがスパゲティーがついていないことに不満な様子。料理の添え物だと思っているのだ。コメもパスタもデンプン質なので合わないのだと説明しても、このアメリカ人夫婦はどうも腑に落ちないという表情をしている。
-「欲しいなら注文しろよ ミートボールのを」
-「ミートボールのはありません」
-「スパゲティーは?」
-「ミートボールとは別です」
-「ああだこうだとうるさい店だ」
このシーン、アメリカ人の味覚音痴を揶揄するようなシーンで、この「ミートボールのスパゲティー」というのもこのセリフの中以外では登場しない料理なのだけれど、ものすごく惹かれてしまった。「ミートボールのスパゲティ」に。食べてみたくなった。だからイメージで作ってみた。ミートボール入りのナポリタンをケチャップでなく普通のトマトソースで作るだけなのだけれど、とても気に入っていてよく作る。パスタをつくって人にご馳走する機会は多くても、これだけはまだ誰にも食べさせたことがない。自分しか知らないメニューだ。
材料(2人分):たまねぎ1/4、マッシュルーム3~4個、ピーマン1個、イシイのおべんとくんミートボール1袋、ホールトマト缶3/4、にんにく2かけ、オリーブオイル(EXバージン)、スパゲティー
にんにくは包丁の腹でつぶす。たまねぎはくし型、マッシュルームは薄切り、ピーマンは輪切りにする。ホールトマトは手でつぶしておく。
フライパンににんにくとオリーブオイルを入れ、火にかける(フライパンを傾けてオイルでにんにくを揚げるようにする)。
にんにくがきつね色になったらたまねぎとマッシュルーム、ピーマンを入れて炒める。たまねぎが半透明になったらミートボールをいれ白ワインをふりかける。
ワインの水分が飛んだらつぶしておいたホールトマトを入れ煮込む(煮込んでいる間にパスタを茹でる)。ソースが煮詰まってきたらパスタの茹で汁でのばす。塩・胡椒で味を調える。
茹で上がったパスタとからめて完成。
この『シェフとギャルソン リストランテの夜』、おいしそうな料理がたくさん出てくる。レストランが舞台の映画だから、当然といえば当然だけれど。
一番心惹かれた料理は、ラストシーンでセコンドが作るオムレツ。バターじゃなくてオリーブオイルで作っている。イタリア人はオムレツもオリーブオイルで作るのか・・・?
どちらにしても早朝の静謐さと相まって、何ともリアルにおいしそうなのだ。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
『Pocketful of Poetry』
Mindy Gledhill
この数ヶ月、僕は「ミンディ・グレッドヒルは分かってる!」と叫び続けてきた。この人のアルバムからはポップってのはこういうものさ、という自信が滲み出ていると思う。tr. 2『Trouble No More』がツボ中のツボ。僕の好物ばっかりいっぱい詰まってる。決して大袈裟な表現ではなく、棄て曲なし、最高に幸せな30分あまり。
『D'ACCORD』
SERGE DELAITE TRIO with ALAIN BRUEL
アトリエサワノのピアノトリオが大好きです。2枚同時発売のうちの1枚。これはピアノトリオにアコーディオンを加えた演奏。明るい休日のランチ。冷えた白ワイン飲みたくなる感じ。
J.S. Bach/Goldberg Variations
Simone Dinnerstein
ゴルトベルク変奏曲からグールドの影を拭いきれないのは仕方がない。この人の演奏には”脱・グールド”みたいな気負いはなく、曲に対してもグールドに対しても愛情に満ちていて、丁寧で、やさしくてすごく好きです。