白ワインの気分だったからだ。
寒いというほどでもないけれど、Tシャツ一枚では過ごせない陽気。重ね着をする季節になった。
僕は暑さと湿気が苦手で、秋から冬にかけてが自分の季節だと思っている。でも薄着から重ね着に移行するこの時期、1枚だったのが2枚・3枚になると、どうしても重っ苦しさや鬱陶しさを感じてしまうのも人情であろう。
かといってビールを飲み干すのには肌寒い。ビールがおいしくなるのは、暖房を入れるくらい寒くなってから。火照った体にキンキンに冷やしたビールを流し込むのだ。ならば、この鬱陶しさを洗い流してくれるのは鮮やかな香りの辛口の白ワインだ。
そんなわけで、気分はすっかり白ワインなのである。それも若いやつ。鮮烈な果実味のあるのがいい。
ならば、と思いついたのがこのスモークサーモンのパスタだ。
サーモンはどうしても生臭い。だからフランベしてバターと生クリームで包む。そうすると白ワインとよく合う。赤い料理には赤ワイン、白い料理には白ワイン、なんていう短絡的な極めつけはどうかと思うけれど、この白いパスタは白ワインによく合うと思う。
食べ物や飲み物は、体と心が求めるものだ。『今日はどうしても白いごはんが食べたいのだ。コメの飯がぐびぐびと咽喉を通る快感を味わいたいのだ』とか、『どうしてもハンバーガーにかぶりつきたいのだ』とか、そういう気分のときは体が求めているのだと思う。お酒の場合は心が作用することが多い。陽気のせいとか、酔いかたとか。
僕にはもうひとつの要素がある。『器』である。
焼締のお皿を見ていたら、緑の野菜を盛り付けたくなったとか、浅鉢にごろごろした煮物を入れたくなった、とか。
些細な、一見つまらないようなことから日々の食べ物は決定されていく。けれども、そういう些細な要素に耳を傾けていることも意外といいものと思う。なんだか年寄りみたいな意見ですが。
さて、パスタの作り方。このパスタは『ラ・ベットラ』落合シェフの本を見て憶えたので、おそらく同じだと思う。
材料はスモークサーモン、生クリーム、牛乳、バター、ウォッカ。生クリームと牛乳の割合は4:1。生クリーム200mlに牛乳50ml。
写真にはないが、パルミジャーノレッジャーノのすりおろし、サラダ油、スパゲティー、塩、胡椒。
フライパンにバターとサラダ油を入れて弱火でバターを溶かす。バターだけでは焦げやすいのでサラダ油も使う。
これでサーモンの生臭さを飛ばす。
煮立たせすぎないように注意する。
ふつふつしてきたら極弱火にして、煮詰まってきたらパスタのゆで汁を加える。
最後にパルミジャーノが入るので、その分を考慮して塩、胡椒で味を調える。
茹で上がったパスタを入れ、パルミジャーノレッジャーノのすりおろしを加え、しっかり和えて完成。
『モンテス』のシャルドネ。若いけど、舌先にピリピリくる感じが少なくておいしいワインだった。
白も赤もそうだけど、チリのワインは早飲みに向いていると思う。
ずっと欲しかったティーマ/探してた/手に入れた/
探していたのだ。アラビア・ティーマを。
『ティーマ(TEEMA)』は、kaj Frank(カイ・フランク)による、装飾を一切取り払った機能的なデザインで有名である。
フィンランドの老舗食器メーカー『アラビア』社は、2001年イッタラ社と統合。以来、その代表的ラインナップである『ティーマ』にもアラビアの王冠ロゴは使われなくなった。
でも、やっぱりティーマといったらこの王冠ロゴなんですよ。
ちょっと前まで(といっても5,6年前だけど)普通に流通していたのが、売れ筋商品からだんだんイッタラロゴに切り替わり、ついにお目にかかることはなくなった。
今回手に入れたのは80年代のデッドストックである。初めて見た。グレーのティーマ。
我が家のティーマのカップ&ソーサーはこれで4セットになった。
かわいい黄色と、やさしげなグレー。
うれしい!
いつの日か、ティーマのロゴがアラビア時代の王冠ロゴに戻ってくれることを願っている。
スパゲティーが好きでよく作る。
本当によく作る。
オリーブオイルとにんにくは切らしたことがないし、ホールトマトの缶詰は10缶、20缶と買ってストックしている。
オイル系、トマト系、クリーム系。実にたくさんのスパゲティーを作ってきた。思ったよりおいしくなくてぶつぶつ言いながら食べたこともあるし、何となく面倒くさくて適当に作ったのがすごく上手にできて、唸りながら食べたこともある。
ごちそうのような、派手なパスタもいいけれど、ふと食べたくなるのは、基本的なシンプルなパスタだ。トマトソースだけでもいいし、にんにくと唐辛子だけのスパゲティーでもいい。物足りない気がするなら、そのときに食べたい具を入れて作ればいい。
さて、そんな基本パスタのひとつがこのほうれん草とベーコンのトマトソースだ。
ほうれん草のうまみが、ベーコンのうまみを取り込んだトマトソースとしっかり絡む。おいしくないわけがない。
材料は、ほうれん草、ベーコン、ホールトマト。
あとは、にんにく、スパゲティー、塩・胡椒。
ほうれん草はざく切り。ベーコンはできればブロックのものを買ってきて、厚く切る。ホールトマトの缶詰は手でつぶしておく。
パスタ用のお湯を沸かしておいて、包丁の腹でつぶしたにんにくとオリーブオイルをフライパンにいれ、とろ火にかける。フライパンを傾けて、にんにくを低温からじっくり揚げるようにする。
にんにくのおいしさをオイルにしみ出させるような感じ。
にんにくがきつね色になったら、ベーコンを入れてカリカリになるまで炒める。
ホールトマトを入れる。
ふつふつしてきたらパスタをお湯の中へ。パスタのゆで時間でソースを煮詰める感覚でいつもやっている。
ソースが煮詰まってきたら、パスタのゆで汁でのばす。パスタのゆで汁には塩が入っているので、塩加減に気をつける。
パスタソースに最も重要なのが『乳化』だ。混ざらないはずの水と油を、油の粒を細かくすることでなじませる。中~弱火で煮詰めながら、フライパンをゆすっていると乳化する。実はこのときに重要な役割を果たすのがゆで汁だ。ゆで汁にはパスタのでんぷん質が溶け込んでいるから、ゆで汁を入れることで乳化しやすくなるのだ。
しっかり乳化したソースは、とろりとしてパスタにしっかり絡む。このことがパスタのおいしさのキモだと思う。
きちんと乳化したら、ゆで汁を入れた分を考慮して、塩・胡椒で味を調える。
パスタのゆで時間が残り1分を切ったらほうれん草を入れてざっくり混ぜる。
茹で上がったパスタをしっかりソースと絡めて、完成。
明日は休みだから、ワインを飲む。
ワイングラスもいいけれど、最近のお気に入りは、このプレスガラスのコップ。分厚くぼったりしていて、気の置けない感じがいい。赤ワインはこれで飲むととってもおいしい。
今日もおいしく食べました。
今まで僕が食べた何100kgものパスタ。
これからもずっと作り続けるであろう何トンものパスタ。
僕の体を構成するものたちは、少なからずパスタでできている。
夜道を一人で歩いていたら
どこから何やらカレーのにおい
僕もこれから帰るんだよ
湯気がたってる暖かいうち
素晴らしきこの世界
(真心ブラザーズ/『素晴らしきこの世界』より)
カレーが嫌いだという人は少ないとは思うけれど、僕はカレーが大好きだ。食べることも作ることも。だからカレーについて語るとき、僕はどうしても饒舌になる。
倉持陽一はカレーを平和の象徴として描いた。
カレーは我々にとって身近な食べ物であり、かつその料理の成り立ちから様々な形態が存在するために、人によってイメージするカレーは千差万別だろう。家庭によってもその味は大きく異なるので、こだわりを持っている人も多いことと思う。カレーってのはこうじゃなくちゃ、と。
もともと発祥の地であるインドにカレーという食べ物が存在しないのは有名な話だ。インド人のようにスパイスの調合に長けていないイギリス人が調合済みのスパイスを商品化したことからカレー粉の歴史は始まる。C&B社のカレーパウダーである。
さて、そんなカレーは日本に入ってきて、かなりの愛されっぷりである。家庭料理としても、お店で食べるエスニック料理としても。ラーメンと並ぶ国民食と言われるほどだ。
ところで僕はカレーをかなりざっくりと以下のように分類している。
①家カレー
②インドカレー
③欧風カレー
④東南アジアのココナッツミルクを使ったカレー
好きな順も以上の通りで、自分で作るカレーは思いっきり家っぽいカレーかインド風のカレー、もしくは両者の中間のいずれかになる。外で食べるのもだいたいこの順番。『家カレー』を外で食べることはできないけれど、カレースタンドのカレーというのがある。『~系』ではない、いわゆる『駄カレー』だ。
前置きが非常に長くなった。今回の本題はこの『駄カレー』なのである。
僕がこよなく愛するのは、『C&C』のカレーだ。C&Cのカレーは、洗練されたところが微塵もない。紛うことなき駄カレーだ。でもおいしい。ほんとにおいしい。
何なのだろう。このおいしさは。
僕がいつも食べるのがこの『唐揚げカレー』。500円。
ゆでたまごをトッピングする(60円)。
カレーソースは野菜(マイルド・野菜・中辛・辛口がある)。僕は辛いカレーが好きだけど、C&Cに関しては野菜のソースがいちばんいいと思う。甘い系だけど、これがいちばんおいしい。
C&Cは1回食べるごとにサービス券をくれる(右図参照)。これを10枚ためるとポークカレーが一食分サービスになるシステムになっている。
また、定期的(?)にカツカレーが安くなったりすることがあるので、目が離せない。
ところで、そんなC&Cのメニューで気になるのがひとつある。『手仕込風チキンカツカレー』というものだ。『手仕込風』と高らかに謳ってしまうことで、『手仕込じゃない』ことを逆説的に証明してしまっている。黙っていればいいのにと思う。
「僕はどうせならネコになりたいよ くだらないことから逃げて寝ていたい」
カレーとはぜんぜん関係ないのだが、冒頭に引用した真心ブラザーズの『素晴らしきこの世界』のこの歌詞が好きだ。
ほんと、くだらないことから逃げて寝ていたい。
ネコになりたい。
『関谷倶楽部』という会員制クラブが存在する。
会員たちと、その都度ゲストを招いてひたすらただ食べて飲む、という企画である。料理は不肖セキヤが担当する。平たく言えば家飲みである。
会費が毎回高いので、高級クラブということもできる。こういうことをやり始めて、もう3年くらい経つから、恒例のお楽しみ会だ。とても楽しいのです。
今回のメニューは『黒大豆の枝豆』、『セロリといかの燻製のオリーブオイル和え』、『ひたし豆と蕎麦の新芽の白和え(柚子ぽん酢風味)』、『するめの糀漬け』、『蓮根と蒟蒻の炒り煮』、『肉じゃが』、『牛蒡と豆腐のたまごとじ』、『豚ばら肉のソテー』、『鶏つくねの照り焼き』、『娼婦風スパゲティー』。
最後の娼婦風スパゲティーだけ異質なのは、最後にどうしてもパスタを、というリクエストに応えて作ったからだ。今回のテーマは『和食』。たいていはパスタなど洋風の料理とワイン、ということが多いので、「秋だし、日本酒のもうぜー」ということになった。
ゲストは2名。会員のひとりの高校の同級生とその奥様。関西の人だ。味付けが口に合うかな、とちょっと不安だったけれど、喜んでくれたようなのでよかった。
まずはビール。
たいてい買っておくのはヱビスかサッポロ黒ラベル。あとはごちそうビールとしてアメリカの『BROOKLYN LAGER』を用意することもある。
ちなみにこの日は集合が15時。写真は照明を落としているので夜っぽい感じだけれど、実は15時半くらいです。真昼間。この微かな後ろめたさもまた快感だ。
お酒は『雪中梅』と『益荒男』を用意。西荻の三ツ矢酒店で買った。親父さんと30分以上話して決めた。
ひたし豆と蕎麦の新芽を豆腐で和える。
柚子ぽん酢と太白ごま油で味付け。
ささがき牛蒡をだし汁で煮て、豆腐を入れてたまごでとじる。上に乗っているのは糸三つ葉。
牛蒡の土臭い香りと三つ葉は好相性だと思う。
肉じゃが。とてもやさしい味だ。
もうこれは家の母親の味そのものなので、懐かしさとともにちょっとだけ気恥ずかしくもあった。
するめの糀漬け。これも三ツ矢酒店で買った。
日本酒のアテには最高の味。
豚バラ肉のソテー。
酒としょうゆをからめただけ。辛味大根をおろしたのでいただく。辛味大根がバラ肉の脂を流してくれるのでさっぱりと食べられる。
鶏つくね。鶏ひき肉が白っぽくなるくらいまでしっかりこねる(空気を含ませるようにする)のが、ふっくら仕上げるポイント。
お酒を注ぐときにちょっと布巾をあてがう、なんていうしぐさもまた日本酒ならでは。
話題はあちこちに飛び、夜は更けてゆく。今回もまたたくさん食べて飲みました。準備チームの人、後片付け手伝ってくれた人、どうもありがとう。
来月、引越しを控えているので、今回の関谷倶楽部は『さよなら三鷹台』も兼ねていた。
この部屋でずいぶん色んなことがあったなあ、と思う。
今度引越す部屋は今よりも広いので、より楽しい会を開きたい。長く続く集まりでありたい。「そういえば俺ら20代だったんだもんなあ。信じられない。」なんて言いあえたら、とても素敵なことだと思う。
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『Pocketful of Poetry』
Mindy Gledhill
この数ヶ月、僕は「ミンディ・グレッドヒルは分かってる!」と叫び続けてきた。この人のアルバムからはポップってのはこういうものさ、という自信が滲み出ていると思う。tr. 2『Trouble No More』がツボ中のツボ。僕の好物ばっかりいっぱい詰まってる。決して大袈裟な表現ではなく、棄て曲なし、最高に幸せな30分あまり。
『D'ACCORD』
SERGE DELAITE TRIO with ALAIN BRUEL
アトリエサワノのピアノトリオが大好きです。2枚同時発売のうちの1枚。これはピアノトリオにアコーディオンを加えた演奏。明るい休日のランチ。冷えた白ワイン飲みたくなる感じ。
J.S. Bach/Goldberg Variations
Simone Dinnerstein
ゴルトベルク変奏曲からグールドの影を拭いきれないのは仕方がない。この人の演奏には”脱・グールド”みたいな気負いはなく、曲に対してもグールドに対しても愛情に満ちていて、丁寧で、やさしくてすごく好きです。