トマトを買いに出かけて、なんとなく立ち寄った魚屋さんで、あんまりいいブリがあったので買う。照り焼きもいいけれど、こっくりと煮物もいいなあと思って大根を買って帰る。
帰ってきて思う。僕はブリを買うつもりじゃなかったんだ。
くるり/『ミレニアム』より
(『図鑑』/2000,VICTOR ENTERTAINMENT,INC.所収)
やけに眩しい気がして目が覚める。
僕の部屋にこんなに明るい日が射すのは昼近くなってからのはずだ。
何かがおかしい。ここは僕の部屋じゃない。
隣に何かが寝ている。白い羽毛に包まれた何か。頭に赤いトサカみたいなものが生えている。
落ち着こうと思う。どうしてこんな状況に巻き込まれているのか。
昨日何をした?どこで飲んでた?誰と何を話した?
だめだ。何も憶えてない。
白い羽毛に包まれた何かは目を覚ましてこちらを振り向く。ベンゾーさんみたいな眼鏡をかけている。
僕の目を見て、ちょっと恥ずかしそうな、でも満ち足りたような微笑みを浮かべる。
僕は慌てた。
「な、何だ君は!」
白い羽毛にくるまれた何かは、驚いたように目を剥いて、頭のトサカみたいなものを揺らしながらこう言った。
「何だつぃみは!? 何だつぃみはってか!!そうです。ワタスがへんなニワトリで…」
「ぎゃあああ!」
高鳴る鼓動とともに目を覚ます。冷たい汗をかいている。
よかった、ここは僕の部屋だ。
しかし、僕の左側で小さな寝息をたてているものは、白い羽毛に包まれていて、頭には赤いトサカのようなものが生えていた。
土曜日に鍋をして、鶏つくねが余った。
何かの暗示のような気がして、このつくねは何があってもムダにはすまいと思った。
月曜深夜。
僕たちは鍋をした。
時間がたったせいか、鶏つくねの味がちょっと変だ。
もしかしたら、あの眼鏡を一緒に煮込んでしまったのではないかと思った。
ところで、友人エイドリアンは『くるりは図鑑だろ』と言う。
必要なのは
愛だけさ愛だけさ 笑うなよ 殺すぞ
ラララ
『ロシアのルーレット』より
ほんとにそうだなと思う。
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新ごぼうが出ていたのである。
まだまだ寒いけれど、土の中はそろそろ春の準備か。
やわらかい新ごぼうだ。じっくり煮て、ほくほくのを食べたいと思った。
そこで、鶏つくねと炊き合わせにすることにした。
ごぼうは適当に切ったら袋に入れ布巾を被せて、すりこぎで叩く。粉砕しないように気をつける。
水に晒す。
鶏つくねは、鶏ひき肉、れんこんのみじん切り、たけのこのみじん切り、しょうがのみじん切り、酒、塩、全卵、片栗粉を混ぜ合わせ、よく練る。粘りが出て白っぽくなるまでひたすら練る。
だし汁に、つくねを入れていく。つくねの表面が固まったらごぼうを入れ、酒と砂糖を入れる。
ちょっと甘めくらいがいい。
落し蓋をして、しばらく煮る。
ごぼうがやわらかくなったら塩と薄口醬油を入れ、落し蓋をしてさらに煮る。
味醂を入れる。アルコールが飛んだら火を止めて冷ます。
食べる前に温めて、最後に根三つ葉を入れて完成。
三つ葉の香りが、ごぼうとの相乗効果でさらに郷愁を誘う風味になる。
新ごぼうはまるで芋みたいにほくほくだ。
味がよく染みこんでいて、でも土の香りのするごぼうはなんと幸せな味だろうと思う。
泣ける味だ。
ささがきにするとこの感じは出ない。だから新ごぼうは叩いて煮るようにする。
炊き合わせだけでは寂しいので、お揚げを焼く。
いつもどおりのしょうが醤油でいただく。
これは、やっぱり日本酒が呼んでいる献立である。
お酒は先日いただいた『両関』。
味はふつう。
この冬で初めて、そろそろ春だなあと感じた瞬間だった。
まだまだ寒いけれど、土の中はそろそろ春の準備か。
やわらかい新ごぼうだ。じっくり煮て、ほくほくのを食べたいと思った。
そこで、鶏つくねと炊き合わせにすることにした。
ごぼうは適当に切ったら袋に入れ布巾を被せて、すりこぎで叩く。粉砕しないように気をつける。
水に晒す。
鶏つくねは、鶏ひき肉、れんこんのみじん切り、たけのこのみじん切り、しょうがのみじん切り、酒、塩、全卵、片栗粉を混ぜ合わせ、よく練る。粘りが出て白っぽくなるまでひたすら練る。
だし汁に、つくねを入れていく。つくねの表面が固まったらごぼうを入れ、酒と砂糖を入れる。
ちょっと甘めくらいがいい。
落し蓋をして、しばらく煮る。
ごぼうがやわらかくなったら塩と薄口醬油を入れ、落し蓋をしてさらに煮る。
味醂を入れる。アルコールが飛んだら火を止めて冷ます。
食べる前に温めて、最後に根三つ葉を入れて完成。
三つ葉の香りが、ごぼうとの相乗効果でさらに郷愁を誘う風味になる。
新ごぼうはまるで芋みたいにほくほくだ。
味がよく染みこんでいて、でも土の香りのするごぼうはなんと幸せな味だろうと思う。
泣ける味だ。
ささがきにするとこの感じは出ない。だから新ごぼうは叩いて煮るようにする。
炊き合わせだけでは寂しいので、お揚げを焼く。
いつもどおりのしょうが醤油でいただく。
これは、やっぱり日本酒が呼んでいる献立である。
お酒は先日いただいた『両関』。
味はふつう。
この冬で初めて、そろそろ春だなあと感じた瞬間だった。
ビールが好きで、普段からビールばかり飲んでいるわけであるが、たまにはごちそうビールを飲むのもいいんじゃないかというときもある。
年が明けてから、自分が何をやっていたのかいまいち記憶が判然としないくらい忙しいのである。
ようやく落ち着いた1日を過ごすことができたのだ。
ブルックリンラガー。
アメリカの地ビールである。
この果実味のある香り!味がしっかりしているのにすっきりしてるし!
僕にとってのビールの理想のひとつがここにある。
魯山人はこう続ける。
年が明けてから、自分が何をやっていたのかいまいち記憶が判然としないくらい忙しいのである。
ようやく落ち着いた1日を過ごすことができたのだ。
ブルックリンラガー。
アメリカの地ビールである。
この果実味のある香り!味がしっかりしているのにすっきりしてるし!
僕にとってのビールの理想のひとつがここにある。
アメリカに来ている日本のビールは、罐詰のアメリカビール程度にまずい。ここにおいて、ビールもまた新鮮を尊ぶことを知りました。アメリカで飲んだドイツビールは、評判ほど、うまくありませんでした。
これは、長い道中、船に揺られ、汽車に揺られて来るせいで、この長い間に大事なものが抜けてしまうのではないかと思います。
これは、長い道中、船に揺られ、汽車に揺られて来るせいで、この長い間に大事なものが抜けてしまうのではないかと思います。
―『春夏秋冬 料理王国*1』
北大路魯山人(1960,淡交新社)
北大路魯山人(1960,淡交新社)
*1 現在は文化出版局から復刊されている
いやいや、魯山人先生。時代は変わりましたよ。ビールが新鮮を尊ぶのは本当だけれど、アメリカのビールだって、いまやこんなにおいしく飲むことができる。
さて、今回はビールのために食事を作った。
じゃがいもとウインナ・ソーセージのオーブン焼。
じゃがいも、ウインナ・ソーセージ、トマト、ブロッコリーにチーズをかけて、オーブンで焼く。
かすかにカレー風味を加えてある。
じゃがいもは下茹でする。
アーリオオーリオを作って、ウインナ・ソーセージと一緒に炒めて、塩、胡椒、カレー粉で味を調える。
耐熱皿に、じゃがいもとウインナ・ソーセージ、トマト、軽く茹でたブロッコリーを並べ、ピザ用チーズ、パルミジャーノレッジャーノのすりおろし、パン粉をかけてオーブンでいい焦げ目がつくまで焼く。
パスタは、前の日に作ったカジキマグロのラグーソース*2が余っていたので、オリーブを加えてプッタネスカ風にしてフジッリにした。
さて、今回はビールのために食事を作った。
じゃがいもとウインナ・ソーセージのオーブン焼。
じゃがいも、ウインナ・ソーセージ、トマト、ブロッコリーにチーズをかけて、オーブンで焼く。
かすかにカレー風味を加えてある。
じゃがいもは下茹でする。
アーリオオーリオを作って、ウインナ・ソーセージと一緒に炒めて、塩、胡椒、カレー粉で味を調える。
耐熱皿に、じゃがいもとウインナ・ソーセージ、トマト、軽く茹でたブロッコリーを並べ、ピザ用チーズ、パルミジャーノレッジャーノのすりおろし、パン粉をかけてオーブンでいい焦げ目がつくまで焼く。
パスタは、前の日に作ったカジキマグロのラグーソース*2が余っていたので、オリーブを加えてプッタネスカ風にしてフジッリにした。
魯山人はこう続ける。
「ビールは大壜より小壜の方がうまい」と始終言っていましたが、こちらに来て、いよいよ私のこの考え方が正しいことを確認しました。日本を一歩踏み出すと、どこの国でも全部小壜ばかりです。日本も一日でも早く小壜主義にならなければ嘘だと思います。
『若いはしため』より/ゲオルグ・トラークル
(トラークル詩集 小沢書店刊,1994)
(トラークル詩集 小沢書店刊,1994)
イタリアンパセリが、枯れかけなびき伏していた。
ハーブは買ってきてもなかなか使い切ることができない。いつもカラカラの干草みたいになって、申し訳ないと思いながら棄てる。
枯れかけだったのだ。しなびているくらいだった。
だから生き返るかもしれないと思って、お皿に氷水を入れてイタリアンパセリを横にしておいて上からラップをかけて一晩おいた。
翌日、仕事から帰ってきて見たその光景に、僕は目を見張った。
しんなり、しょんぼりしていたイタリアンパセリはお皿から溢れ出さんばかりにいきいきとしている。
緩めにかけておいたラップを鬱陶しそうに持ち上げている。
おおお。
生きているんだね。
生命の真髄を見たような気がして、止むことのない雨のように僕の目から涙がぽろぽろと流れ出ては落ちた。
さて、先日のハムがまだ冷凍してあるので、この復活したイタリアンパセリを使ってパスタにする。
ハムのペペロンチーノである。
ハムはおおぶりに切る。
にんにくと赤唐辛子のオイル。
にんにくがきつね色になったら、ハムを炒める。
白ワインを入れ、強火で水分を飛ばす。
パスタの茹で汁を加える。
フライパンをゆすって乳化させる。
塩、胡椒で味を調える。
茹で上がったパスタを入れ、しっかり和える。
粗く刻んだイタリアンパセリ。
ソースとパスタを和えるときに半量を加える。
お皿に盛り付けてから、残りの半分を散らす。
ハムのおいしさがオイルに出ていて、手軽ながらなかなかおいしいパスタだ。
先日、友人からヱビスのグラスをいただいた。
中味はサッポロ黒ラベルである。ヱビスは在庫を切らしていた。
辛いパスタは、ビールによく合うと思う。
世の中には、植物を育てる才能のある人というのがいる。グリーン・フィンガーとかグリーン・サムとか呼ばれる人たちである。
どんな植物も育てるそばから枯らしてしまう僕には、お側に寄ることさえ躊躇われるが、今回はちょっとだけ近づいた気がした。
友人がお正月に秋田に行ってきたそうである。
お土産の『両関』を持ってやってきた。
ほんとうはこの両関の『初搾り』なるものを求めたかったそうである。
つまり、なかったのだ。
そこでフツーの両関。
これは、先日友人から自分のうちで漬けたものをもらった。
大根の皮を干したものを、昆布と酢醬油で漬けたもの。
こればなかなかおいしいのである。
寒いし、日本酒があるので鍋にする。
鶏ときのこ中心の鍋。
柚子胡椒は2種類用意する。
赤と緑。
赤い柚子胡椒は珍しい。が、鶏鍋には普通の緑の柚子胡椒のほうが向いていると思った。
鶏つくねの照焼き。
鶏ひき肉とたけのこのみじん切り、しょうがのみじん切り、酒、塩、片栗粉、たまごを合わせて、よく練っておく。
てりやきのたれは、酒、砂糖、醬油、味醂で作る。
さて、両関の味だが。
至ってフツーだった。
翌朝、起きるのが本当に辛かった。
お土産の『両関』を持ってやってきた。
ほんとうはこの両関の『初搾り』なるものを求めたかったそうである。
つまり、なかったのだ。
そこでフツーの両関。
これは、先日友人から自分のうちで漬けたものをもらった。
大根の皮を干したものを、昆布と酢醬油で漬けたもの。
こればなかなかおいしいのである。
寒いし、日本酒があるので鍋にする。
鶏ときのこ中心の鍋。
柚子胡椒は2種類用意する。
赤と緑。
赤い柚子胡椒は珍しい。が、鶏鍋には普通の緑の柚子胡椒のほうが向いていると思った。
鶏つくねの照焼き。
鶏ひき肉とたけのこのみじん切り、しょうがのみじん切り、酒、塩、片栗粉、たまごを合わせて、よく練っておく。
てりやきのたれは、酒、砂糖、醬油、味醂で作る。
さて、両関の味だが。
至ってフツーだった。
翌朝、起きるのが本当に辛かった。
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