遠くで泣いてる声が聞こえる…。
―「しくしく…」
台所の奥のほうで泣き声の主を発見した。キング・オスカーだ。
「どうしたんですか」
―「セキヤ君、君は私のことなどすっかり忘れてしまっているのだろうね…。」
「…。申し訳ありません。うっかり失念しておりました。」
―「しくしく…」
「泣かないでくださいよ…。ちゃんと使いますから。」
しかしキング・オスカーは悲しげな表情を湛えたままだ。
オイルサーディンは、買うと結構高いけれど、忘れてしまいがちである。缶詰だし、持つから…という油断のせいか。
そこで、トマトソースにオイルサーディンを入れてしまうことにした。
これが、なかなかでした。
【材料】
オイルサーディン、ホールトマト缶、タイム、にんにく、唐辛子、スパゲティー、オリーブオイル、塩、胡椒。
タイムはオイルサーディンの生臭さを消すために使った。
ホールトマトは缶汁ごと手で潰しておく。
にんにくは包丁の腹で潰し、芯を取り除く。
フライパンにオリーブオイルとにんにくを入れ、弱火にかける。
フライパンを傾け、オイルでにんにくを揚げるようにして、オイルに香りをうつす。
にんにくがきつね色になったら、ふたつにちぎって中の種を取り除いた唐辛子を入れる。
オイルサーディンを投入し、中火で炒める。
缶に入っていた油はざっと切って入れた。
白ワインをふりかける。
しばらく炒めて、ワインの水分を飛ばす。
潰したホールトマトとタイムを加える。
煮立ったら、弱火にして煮詰めていく。
この辺で、パスタを茹で始める。
ソースが煮詰まったらパスタの茹で汁でのばす。
塩、胡椒で味を調える。
茹で上がったパスタと和えて完成。
オイルサーディンの生臭さが気になるかなーと思って使ったタイムが思いのほか効果的だった。
トマトとの相性もいいと思う。
これで、家にはもうオイルサーディンがなくなった。
また買ってこよう。
オイルサーディンはトマトソースにしないで、オイルのソースにしてもいい。最後にあさつきを散らして。白ワインで。
1年くらい経って、また台所の隅から埃だらけのキング・オスカーを発見する、なんてことは避けたいと思う。
ここのところ東京は雪が多い。
雪が積もると僕はどうなるか。
無条件にテンションが上がるわけです。子供みたいだと嗤う向きもあるかも知れない。でも、しょうがないのだ。寒さは逆に気持ちを昂揚させ、傘も差さず、上気して買い物に出掛けた。
さて、そんな胸躍る晩に何を作ったかというと、このモッツァレラ入りトマトソースのスパゲティーだ。買い物中、心が弾んでいたものだから、ワインやらいろいろと買い込んだのだ。
そんなわけで、雪を祝してパスタとワインである。
作りながらも外が気になってしょうがない。にんにくとオリーブオイルを火にかけてはベランダに出て雪を見る。パスタを茹で始めては、また雪を見に行く。
完成するまでに5回は台所とベランダを往復した。
【材料】
モッツァレラチーズ、パルミジャーノレッジャーノのすりおろし(大さじ3)、ホールトマト缶詰、にんにく、スパゲティー、塩、胡椒。
シンプルだ。
ホールトマトは缶汁ごと手で潰しておく。
モッツァレラチーズは適当な大きさに切る。手でちぎってもよい。
にんにくは包丁の腹で潰し、皮と芯を取り除く。
フライパンににんにくとオリーブオイルを入れ、弱火にかける。
オイルににんにくの香りをうつす。フライパンを傾け、揚げるような感じにする。
にんにくがきつね色になったら、潰したホールトマトを入れ、中火で煮込む。
しばらく煮込んだら(トマトの色が赤から朱色がかった赤に変わるくらいまで)、パスタを茹で始める。
トマトソースが煮詰まったら、パスタの茹で汁でのばす。
塩、胡椒で味を調える。
パスタが茹で上がったら、モッツァレラチーズを投入する。
続いて、パスタとパルミジャーノのすりおろしを入れ、しっかりあえて完成。
モッツァレラがのびる。
ワインはこちら。
『コノスル』のピノ・ノワール。オーガニックワインだそうだ。
これ、あたりかもしれない。とてもおいしかった。1200円くらい。
ところで、食べながら聴いていたのがこのCD。
『PLAIN SONGS』/W. W. LOWMAN
(2007, ARBOUSERECORDS)
オルタナティヴです。
いつ、どこで手に入れたのか、まったく憶えていない(僕の記憶力の悪さは定評があります)。
でも、すごくよくて、最近よく聴いている。
とくにtrk.6『Lee and Me』。静かに始まって、中間部で楽しくなって、また前半とは違うちょっと諦めたような静けさが来て、終わる。
雪で昂揚した気分をこの音楽が少しだけ鎮めてくれた。
そんな昨日の呟きをよそに、『カレーうどん』である。
この『ブリを買うつもりじゃなかった』に通暁されている方はご明察のことと思うけれど、もし、ラーメンであれば他に何があろう、『サッポロ一番 塩らーめん』にカレーを溶かして食べたのである。
別にうどんにしたからといってどうだ。
ただ、そういや冷蔵庫の中にこの間とっただし汁がペットボトルに入れてとってあったな、と思っただけの話である。ついでに申し訳程度に残っていた桃屋のつゆも使っちまおうという具合なのであった。
だし汁を温め、桃屋のつゆ(ほんとにちょっとしかなかった)をいれ、酒、塩、薄口醤油で薄めのうどんつゆを作って、それにカレーを入れた。
うどんは冷凍。
こねぎを散らして完成。
作り方を明記するほどのものでもないのだけれど…。そして5日目のカレーメニューであったのだけれど…。
それでも僕は今、小躍りしたい気分である。
カレーを全部消費できたからだ。うどんつゆも全部飲み干した。
おいしかったよ。カレー。
ありがとう!
これで、手羽をもがれた鶏たちや、地面から掘り起こされたじゃがいもやにんじんやたまねぎたちにも申し訳が立つってものだ。
シンクに板を渡して、何を始めるつもりなのかというと、包丁を研ぐのだ。
セキヤ家では包丁研ぎはオトコ仕事で、ずっと父親がやっていた(最近は実家に帰ったときに僕がやることもある)。おそらくその前は祖父がやっていたと思う。
別に本職ではないので、そんなに頻繁には研がないけれど、切れなくなってきたら研いで、月1回くらいのペースだ。
そろそろ研ぎ時かなという目安は、トマトが気持ちよく切れなかった時とか、ねぎの小口切りをしたらつながってた時。
切れない包丁はかえって危ない、とよくいわれる。なるほど、たしかにそうだ。切るのに不自由するようでは余計な力が入るから、怪我をしやすいと思う(ただ、どんなによく切れる包丁を使っていても怪我をするときはするのだけれど)。
さて、使う砥石は2種類である。
左のレンガみたいなのが中砥石(キング#1000)。
右が仕上げ砥石(北山)。この北山という砥石。すごいです。河童橋に行ったときに、お店の人のお薦めで購入したが、すばらしい仕上がりになる。だた、値段もよかった。
このほかに、よっぽど切れなくなったときや、買ってきた包丁に刃付けをするときに、荒砥石を使うが、普段は使わない。
砥石をしっかり水に浸けて研ぐ。
刃先を中心に。
包丁研ぎは難しい、という印象を持たれがちだが、実はぜんぜんそんなことはない。別に力も要らない。慣れである。「包丁を研ぐか…」というときがちょっと腰が重いけれど、研いでからは新世界が待っているのだ。
うーん。新世界。
これでトマトもねぎもスパーッと切れる。
カレーを作ると、どうしても余る。
かといって、余らないように少量のカレーを作るというのも鼻白むものがある。
余ったカレーを冷凍したりしたこともあるが、冷凍したカレーをきちんと食べ終わった記憶がない。食べないまま幾年月…ということだってあった。
畢竟、カレーは鍋から他の容器に移しかえた時点でその生涯の殆どを終えているのかもしれない※。
※こんなふうに思うのは僕だけかもしれないですが、もったいないと思って冷凍しておいても、後からきちんと消費できたためしがないもので…。解凍して食べてもあんまりおいしくないし。
さて、先日作ったカレーは4日目である。寒い時期だからまだ傷んでいない。
2日目は温めて普通に食べる。3日目は火を入れるけど食べない。
もう飽きてきた。そんなとき、僕はカレーチャーハンを作る。
茅場町に『カレー革命』というお店があって、そこはわりと本格的なインドカレーのお店なのだが、看板メニューがぜんぜんインドっぽくないこの『カレーチャーハン』なのだ。
オープンキッチンのお店なので作り方をみて憶えてきた。それ以来、カレーを作った後のバリエーション料理の殿堂入りである。
まずは普通にチャーハンを作る。
中華鍋に油をひき、たまごを入れる。すかさずごはんを投入。強火で炒めて、ごはんがパラパラになったら塩、胡椒。鍋肌から醤油をまわしかける。
ここで少量のカレーをチャーハンに加える。最後にこねぎを散らす。
器に盛ったら、さらにカレー。ゆでたまごをトッピングして完成。
カレーチャーハンを作った時点でも、カレーはまだ消費しきれていない。
明日はラーメンか…。
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『Pocketful of Poetry』
Mindy Gledhill
この数ヶ月、僕は「ミンディ・グレッドヒルは分かってる!」と叫び続けてきた。この人のアルバムからはポップってのはこういうものさ、という自信が滲み出ていると思う。tr. 2『Trouble No More』がツボ中のツボ。僕の好物ばっかりいっぱい詰まってる。決して大袈裟な表現ではなく、棄て曲なし、最高に幸せな30分あまり。
『D'ACCORD』
SERGE DELAITE TRIO with ALAIN BRUEL
アトリエサワノのピアノトリオが大好きです。2枚同時発売のうちの1枚。これはピアノトリオにアコーディオンを加えた演奏。明るい休日のランチ。冷えた白ワイン飲みたくなる感じ。
J.S. Bach/Goldberg Variations
Simone Dinnerstein
ゴルトベルク変奏曲からグールドの影を拭いきれないのは仕方がない。この人の演奏には”脱・グールド”みたいな気負いはなく、曲に対してもグールドに対しても愛情に満ちていて、丁寧で、やさしくてすごく好きです。