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トマトを買いに出かけて、なんとなく立ち寄った魚屋さんで、あんまりいいブリがあったので買う。照り焼きもいいけれど、こっくりと煮物もいいなあと思って大根を買って帰る。 帰ってきて思う。僕はブリを買うつもりじゃなかったんだ。
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6d2e403e.jpgマスオさんが独りで揚げ物をしている。
家人が皆、出掛けているのだ。

そこへやってくる氷屋さん。








7c655f1b.jpg代金を払おうとするが、胸ポケットに入っているはずの財布がない。










ab923c56.jpg次でけっこうです、と氷屋さんは帰っていく。











d5430c65.jpg食べ始めて気がつく。

『アッ このてんぷら さいふだ!!』

慣れない天ぷら作りの最中に、おそらくかがんだ拍子にでも衣の中にうっかり財布を落としてしまったのであろう。気付かずにそのまま天ぷらにしてしまった、というオチだ。




『サザエさん』/長谷川町子(姉妹社) より


さて、なぜこんな古い(おそらく昭和20年代)の『サザエさん』を引用したのか。

マスオさんが半ズボンでドット柄の前掛けをしているのがかわいいとか、揚げ物をしているコンロが気になるとか、昔は氷屋さんなんていう商売があったんだなあとか、そういうことではない。

マスオさんの作る天ぷらが『妙にうまそう』なのだ。揚げているときの『じゃー』という音も。

いくら磯野家といえども、みんな出掛けちゃうことだってある。コンビニなどない時代だ。マスオさんは一所懸命に天ぷらを作る。

Tシャツに半ズボンであることや、蚊取り線香を焚いていることなどから、季節は夏だ。お櫃も用意してあるということはちゃんとごはんも炊いたのだ。そしてビール。財布以外の天ぷらのタネは何だろう。鱧(ハモ)ってことはないだろうから、イカあたりが妥当だろうか…。

想像が膨らんでいく。

僕が食い意地が張っているせいかもしれないけれど、食べ物が描写されているシーンに釘付けになってしまうのだ。そして、頭の中にできあがるその食べ物を食べたくてしようがなくなる。


そんなシーンはいくつもある。

名作『ルパン三世 カリオストロの城』より。

e9c6fa0f.jpgカリオストロの城下町の食堂で、次元と取り合いになる『スパゲティー』。具はミートボール以外は見当たらない。色からするとおそらくトマトソースだ。きっとちょっと甘めの味付けなんじゃないかと想像する。大皿に盛られているのが何ともうまそうだ。
さらに奥に写っている藁に包まれた瓶の赤ワインもまた…。こういうお店で何となく出てくるワイン。決して高級なものではないのだろうけれど、そこがまたおいしそうだ。




20c159bc.jpg銭形警部が部下と一緒にすするカップラーメン。しかも透明のプラスティックのフォークを使っている。

こういうのもおいしそうなのである。






966fabf2.jpgそして、何といってもこのシーンだろう。

狙撃された後、「血が足りねえ、何でもいい、じゃんっじゃん持ってこい」といって食べるもの。

ローストチキン、ハム、ソーセージ、チーズ、パン、そしてまた、藁に包まれたワイン。



f028ff3b.jpg最後は、残ったのを全部まとめて口の中へ。

これがうまそう。








決しておいしそうとはいえなくても惹かれてしまうものだってある。


e059fb65.jpg『ムーン・パレス』
ポール・オースター/柴田元幸訳

主人公マーコ・フォッグは大学生のときに唯一の肉親である伯父さんを亡くす。同時に経済的援助を失う。奨学金や勤労学生プログラムなどの手段を一切拒否したマーコは、貯金と、伯父さんの遺した本のコレクションを読んでは古本屋に売って生計を立てる。当然、爪に火を灯すような生活を余儀なくされる。



『…僕は食事の全面的改革に取りかかった。暑さで傷むたぐいの食品はいっさい使わないようにするのだ。六月十二日、新たな食事計画ができ上がった。粉ミルク、インスタントコーヒー、小さな袋入り食パン、以上が主食となる。加えて毎日、人類の知るもっとも廉価にしてもっとも栄養豊かな食物、卵を食べる。誘惑に耐えられなくなったときには、清水の舞台から飛び降りるつもりで、ハンバーガーかシチュー缶。これなら食べ物は腐らないし、僕も(少なくとも理論的には)餓死せずに済む。卵を一日に二個、二分半で完全な半熟に茹でる。パンは二枚、コーヒー三杯。水は好きなだけ飲んでよい。元気の出るプランとはいいがたいが、少なくともそこにはある種の幾何学的エレガンスがあった。…』

ひどい食生活だが、こういう生活をしているときの1日2枚の袋入り食パンっておいしいだろうなと思う。そして粉ミルク!この状況でこその魅力か。


極めつけはこれだ。

2b6eae3b.jpg『イワン・デニーソヴィチの一日』
ソルジェニーツィン/木村浩訳(新潮文庫)

ソ連の強制収容所の現実を描いた小説。その食事たるや悲惨だ。

『肝じんなことは、きょうの粥(カーシャ)がとびきり上等の燕麦粥だということだ。そうめったにでないやつだ。ふだんはマガーラのやつが一日に二回、そうでなければべとべとした穀粉粥だ。燕麦粥のときは、粒のところだけでなく、つゆのところでも腹がくちくなる。だから珍重されているのだ。
シューホフはいくら自分が若いころから馬に燕麦をやっていたとはいえ、その自分がたった一掴みの燕麦を夢にまで見ようとは、我ながら思ってもみなかったことだった。』

それでも、このカーシャ(粥)を残らず食べるために内ポケットにひそませたパンの皮で残りかすまできれいに拭い取って食べる。

極限の食事だ。

僕は燕麦がどういうものか知らないけれど、きっとおいしくないのだろう。でも、こういうのも実は食べてみたくてしようがない。


きっと、こういうことだ。おいしさは味の良し悪しだけではないのだ。
様々な状況や要素が重なり合って、おいしさはできている。だからどんなひどいものでもそれが待ち焦がれた食事として描かれていると、食べたくなってしまうのではないかと思う。また、その状況、空気感の中でしか食べたくないものもある。

物を食べるシーン。おいしそう以外に感じ取ることはたくさんある。






さて、そんな気分で作ったごはんは『クリームシチュー』だ。

564d5ad6.jpg鶏肉を焼いて、白ワインを入れる。にんじんとたまねぎ、じゃがいもを炒める。コンソメスープとタイムを入れて煮込み、牛乳を入れる。塩、胡椒で味を調え、ブールマニエ(小麦粉とバターを同量練り合わせたもの)でとろみをつける。







敢えて古い琺瑯の器と木のスプーンで食べた。パンは食パン。

何だか、給食みたいだった。





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はじめまして。
私もルパンのパスタはミートボール甘めのトマトソース!!だと思っていました♪
うれしくなってコメントしてしまいました。
お料理の写真が外国の料理の本みたいで、
素敵です。
また遊びにきま~す。
URL 2008/03/11(Tue) 編集
Re:はじめまして。
春さん

はじめまして。セキヤです。
コメントありがとうございます!

やはりそうですか!ミートボールのパスタは甘めでないといけない感じがしますよね。こんな細かいところに共感していただけて嬉しいです。
それにしても、あのスパゲティーはおいしそうですね。

あのパスタは、とんでもないものを盗んでいきました。僕の心です。

これからもよろしくお願いします。
 【2008/03/12】
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1977/05/04
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